お前の全てを奪いたい【完】
 明石さんの声を背に俺は外へと出て行き、電話をしている環奈の元へ向かう。

「……うん、ごめんね。あの……ちょっと仕事の事でオーナーさんたちと話があって……」

 男が何か言ってるのか、環奈は謝りながら説明をしているようだがそんな事はお構い無しに環奈の背後に回った俺は、後ろから環奈を抱き締めた。

「……ば、んり……さん?」
『おい、環奈? 聞いてんのか? おい』

 俺の突然の行動に驚いた環奈は口元から電話を遠ざけ、戸惑いの表情を浮かべながら俺の名前を呼ぶ。

「どうした? 続けろよ」

 俺が環奈の耳元でそう囁くと、環奈の身体がピクリと反応する。

『おい!? 環奈? 返事しろよ。おい――』

 いつまでも電話口から耳障りな声が聞こえていたのが気に入らなかった俺は環奈からスマホを奪い取ると、そのまま電話を切ってやった。

「……あ……万里さん、どうして……」
「どうして? それは何に対しての言葉だ? どうして電話を切ったのかって事? それとも、どうしてこんな事をするのかって事?」

 恐らく、環奈はどちらも聞きたいだろう。

 俺に抱きしめられたままの環奈は身動きが取れずに固まったまま。

 だけど、嫌がる素振りは一切無い。

 こうなると、俺の理性はもう、崩壊する。

 俺は環奈から腕を離すと向かい合うよう店の壁際に彼女を押しやり、逃げ道を塞ぐ。

「……万里さん…………駄目……」

 壁際に追い詰められて逃げ場を失った環奈は、この後の事が何となく予想出来たのかもしれない。

「駄目ならもっと抵抗しろよ? 嫌だと言われれば、俺は退く」
「…………そんな……私……」
「環奈――あんな男より、俺にしろよ」
「……っ」

 駄目と言いながらも抵抗しない環奈に迫り、俯いている彼女の顎を持ち上げた俺は、

「――っんん……」

 強引に唇を奪ってやった。
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