お前の全てを奪いたい【完】
FOURTH
 環奈と結ばれ深い仲にはなったものの、俺らはまだ、恋仲になった訳じゃなかった。

 あれから環奈が喜多見に『別れたい』と電話で話したものの、アイツは『そんなつもりはない』の一点張りで聞く耳を持たない。

 未だ環奈があの男の女という事が酷くもどかしい。

 けど、そんなのあくまでもアイツが言ってるだけの事。

 環奈の心はもう、俺にあるんだから。

 しかし、それ以外にもまだ、問題は山積みだった。


「ねぇ芹、どうして最近アフター行ってくれないの?」

 いつも通り接客をしていると、真美が頬を膨らませながら迫ってくる。

「だって真美は、アフター=ホテルだろ? この前話したと思うけど、俺もう、今後客とは寝ないって決めたんだ」
「どうしていきなりそんな事言うの? 私は他の客とは違って特別って言ってくれたのに!」
「……悪いな、それが嫌なら俺の事はもう指名してくれなくていいよ。誰が何と言おうと考えを曲げる気はねぇから」
「……本命が出来たって、事?」
「――そう取ってもらっても構わねぇよ。ここはホストだ。ここに居る間は尽くすよ。けど、店から出たら俺は、別の人間なんだよ。ごめんな」
「…………」
「今日は別の奴、席に付けようか?」
「やだぁ! 私は芹がいいの! 芹じゃなきゃ嫌なの! 分かった、それならアフターは普通に食事に行こ? それなら行ってくれるんでしょ?」
「そうだな、ホテルには絶対行かないって言うなら、アフターは良いよ」
「約束するから! 私、お店以外でも芹と一緒に居たいの!」

 これまで寝て来た大抵の客は俺の意思を尊重して、今後一切身体の関係は持たない事を受け入れてくれたのものの、真美だけはなかなか納得してくれなかった。

 一番の太客だから特別扱いしていたのがいけなかったと分かってはいるが、正直面倒臭い。

 けど、店にいる間は『芹』として振る舞い、客に夢を見せないとならない。

 それが俺の仕事だから。


 一方の環奈はというと、未だキャバ嬢を続けていた。

 俺としては辞めて欲しかったが、お金も無いし、せっかく慣れて来たからもう少し続けてみたいという彼女たっての希望で働いている。

 まあ本人が楽しんでいるなら仕方が無いと、明石さんには厳しく監視を頼み、絶対に危険が無いようにしてもらっているから、まだ安心だった。

 暫くは穏やかな日常を過ごしていた俺たちだったけど、ある日を境にそれは一変する事になる。
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