お前の全てを奪いたい【完】
その日は珍しく開店と同時に客たちがやって来る。
「ちょっと! これ、どういうこと?」
「キャバ嬢に惚れ込んでるとか、本当なの!?」
「信じられない! 私だけって言ってくれてたのに!」
「はあ? アンタ何様よ? 彼は私の事が好きなのよ!」
「馬鹿じゃないの? あんたみたいなババアに本気な訳ないでしょ?」
「何ですって!?」
「お、お客様! 少し落ち着いてください!」
突然押し掛けた客が何やら口々に言うと、今度は客同士が喧嘩を始める始末。
これには黒服たちも驚き、数人で止めに入ったようだ。
「何だ? どうした?」
「今日は客入り早くねぇか?」
入り口が騒がしい事で俺と礼さんが姿を現すと、
「芹! ちょっと、これどういう事!?」
「説明してよ!!」
真美をはじめ、俺の指名客たちが黒服を押し退けて詰め寄って来た。
「な、何だよ?」
いきなりの事で何だかよく分からない俺に真美が一枚の紙を押し付けてくる。
それを手にして見てみると、そこには俺と環奈の事が書かれた書き込みの一部が載っていた。
恐らく、ネットで見付けたものをプリントアウトして来たのだろう。
「何よ、この環奈ってキャバ嬢! 芹、この女に惚れ込んだから私と寝るの止めたのね? 信じられない、こんな田舎臭い女!」
「芹、キャバ嬢なんて止めた方がいいわ! 金目当てよ」
「私、今まで以上に芹に尽すわ! だから、目を覚まして」
「ちょっと、アンタは黙っててよ」
「はあ? アンタこそ黙りなさいよ!」
女たちは次々に自分の言い分を口にしては、ライバルたちを罵り合う。
この光景を見て、心底醜いと思ってしまう。
(何なんだよ、何でこんな書き込みが……)
そこで、俺は気付く。これは恐らく喜多見の仕業では無いかと。
「礼さん、悪いけど俺、今日は帰るわ」
「ああ、そうだな。これじゃ営業にならねぇし、後はこっちで何とかする。この分だと恐らく、HEAVENの方にも皺寄せが行ってるかもしれねぇから頼む」
「分かった」
小声で礼さんと話を付けた俺が裏に引き返そうとすると、
「芹! 待ってよ! お金ならいくらでも出すわ! だから、私だけを見てよ!」
真美がそう叫ぶ。
そんな彼女の言葉に俺は足を止め、冷めた瞳を向けて女たちに言い放った。
「あのな、俺はホストだぜ? 初めから客の誰にも本気になんてなってねぇんだよ。それに俺は、そこに書かれてる通り、『芹』じゃなくて、『万里』だ。俺は万里として、環奈に惚れてんだ。他人にとやかく言われる筋合いねぇんだよ」と。
「ちょっと! これ、どういうこと?」
「キャバ嬢に惚れ込んでるとか、本当なの!?」
「信じられない! 私だけって言ってくれてたのに!」
「はあ? アンタ何様よ? 彼は私の事が好きなのよ!」
「馬鹿じゃないの? あんたみたいなババアに本気な訳ないでしょ?」
「何ですって!?」
「お、お客様! 少し落ち着いてください!」
突然押し掛けた客が何やら口々に言うと、今度は客同士が喧嘩を始める始末。
これには黒服たちも驚き、数人で止めに入ったようだ。
「何だ? どうした?」
「今日は客入り早くねぇか?」
入り口が騒がしい事で俺と礼さんが姿を現すと、
「芹! ちょっと、これどういう事!?」
「説明してよ!!」
真美をはじめ、俺の指名客たちが黒服を押し退けて詰め寄って来た。
「な、何だよ?」
いきなりの事で何だかよく分からない俺に真美が一枚の紙を押し付けてくる。
それを手にして見てみると、そこには俺と環奈の事が書かれた書き込みの一部が載っていた。
恐らく、ネットで見付けたものをプリントアウトして来たのだろう。
「何よ、この環奈ってキャバ嬢! 芹、この女に惚れ込んだから私と寝るの止めたのね? 信じられない、こんな田舎臭い女!」
「芹、キャバ嬢なんて止めた方がいいわ! 金目当てよ」
「私、今まで以上に芹に尽すわ! だから、目を覚まして」
「ちょっと、アンタは黙っててよ」
「はあ? アンタこそ黙りなさいよ!」
女たちは次々に自分の言い分を口にしては、ライバルたちを罵り合う。
この光景を見て、心底醜いと思ってしまう。
(何なんだよ、何でこんな書き込みが……)
そこで、俺は気付く。これは恐らく喜多見の仕業では無いかと。
「礼さん、悪いけど俺、今日は帰るわ」
「ああ、そうだな。これじゃ営業にならねぇし、後はこっちで何とかする。この分だと恐らく、HEAVENの方にも皺寄せが行ってるかもしれねぇから頼む」
「分かった」
小声で礼さんと話を付けた俺が裏に引き返そうとすると、
「芹! 待ってよ! お金ならいくらでも出すわ! だから、私だけを見てよ!」
真美がそう叫ぶ。
そんな彼女の言葉に俺は足を止め、冷めた瞳を向けて女たちに言い放った。
「あのな、俺はホストだぜ? 初めから客の誰にも本気になんてなってねぇんだよ。それに俺は、そこに書かれてる通り、『芹』じゃなくて、『万里』だ。俺は万里として、環奈に惚れてんだ。他人にとやかく言われる筋合いねぇんだよ」と。