お前の全てを奪いたい【完】
 店を出た俺は、さっきの発言は言ってはいけないモノだったと反省した。

 プロなら、感情任せで返してはいけない事も分かってた。

 だけど、俺はもう、我慢出来なかった。

 環奈が好きなのは事実だし、真美をはじめ客の女たちには一切の感情が無いのも事実だから。

 こうなった以上、俺はもう店には居られないかもしれない。

 けど、それでも良いとさえ思っていた。

 そんな事よりも俺には一つ気掛かりな事がある。それは、環奈の事だ。

 HEAVENの前に着いた俺は表から店には入らず、明石さんに直接電話を掛けた。

「あ、明石さん?」
「万里か。お前のとこ、変な書き込みで荒れてないのか?」
「荒れてる。つーか俺の客が怒鳴り込んで来たよ。それでもしかしたらHEAVENにも皺寄せがいってるかもと思って今外に居るんだけど、裏から入っていい?」
「そうか、ああ、入って来い」

 明石さんの了解を得て裏から入ると、環奈が事務所に居た。

 俺が来た事で明石さんは事務所を出てホールへ向かって行き、環奈と二人きりになる。

「万里さん」
「環奈……お前もあの書き込みを?」
「はい、明石さんから見せてもらって。あれ書いたの、一聖くんですよね……」
「……恐らくな」
「すみません、万里さんにまでご迷惑を掛けてしまって」
「俺の事はいいんだよ。それよりも、お前が今考えてる事、当ててやろうか?」
「え?」
「お前、アイツのとこに戻るつもりじゃねぇのか?」
「……っ、そ、それは……」

 図星を突かれて言い淀む環奈。

 やっぱり、俺の予想は当たってた。

 環奈の性格だと自分のせいでこんな騒ぎになったと分かったら必ず、自分で何とかしようと思うはずだから。

「そんな事、絶対させねぇ」
「万里さん……だけど、そうしないと……私よりも、万里さんが」
「環奈、よく聞け。正直俺はもう、ホストに未練は無い。これまでだって別に誇りがあった訳じゃなくて、金の為、礼さんや店の為に続けてただけなんだ。女を騙して、金の為に抱いた事も数知れねぇ」
「…………」
「俺、根っからのクズなんだよ。けどな、環奈と出逢って、初めて人を愛する事がすげぇ幸せな事だって知った。それを知ったら、もう他の女なんて抱けねぇし、今まで金積まれて抱いてきた事すら、後悔してる」
「……万里さん……」
「だから、こうなったのは自分のせいでもあるんだ。環奈だけのせいじゃない」
「でも……」
「俺は、どんな事があってもお前を喜多見の元へなんかやらねぇ! 俺から離れるなよ……俺には、環奈が必要なんだ」

 これ以上アイツの元へ行くと言うなら、俺は環奈を閉じ込めてでも止めるつもりだった。
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