お前の全てを奪いたい【完】
「芹……」
「……真美……」

 俺たちの前に姿を見せたのは真美だった。

 暫く見ない間に、何だか酷く窶れた気がした。

「……ようやく見付けた……捜したよ? お店に全然居ないし、連絡も出来ないし……」

 そう言いながらゆっくり、一歩ずつ俺らと距離を詰める真美。

 よく見ると右手には……包丁が握られていた。

 それに気付いた周りの野次馬たちは、

「ヤバい! あの女、包丁持ってる!」
「誰か、警察! 警備員呼んでよ!」

 なんて騒ぎながら距離を取っていた。

「おい、真美……」
「何? 芹」
「それ……」
「ああ、これ? ふふ、だって必要でしょ? 邪魔者は、これで排除しなきゃ」

 真美は包丁を顔の近くまで持ってくると、そう言いながら刃先を環奈へ向けた。

「おい真美、止めろ!」
「芹、この女に騙されてるのよ。こんなキャバ嬢、私の敵じゃないわ。大丈夫、すぐに消してあげる。そしたら芹は、私と居られるでしょ?」

 言いながら真美は環奈へと距離を詰めていく。

「環奈、早く俺の後ろに」
「で、でも……」
「アイツはお前を殺そうとしてんだ。下がってろ」

 渋る環奈を背に庇い、俺は真美と対峙する。

「……何で? どうしてその女を庇うの?」
「真美、聞いてくれ。環奈は悪くない。悪いのは全部、俺なんだ。きちんと向き合わなかった俺が悪かった。ごめん、真美」
「……どうして、謝るの? 私は、そんな事、望んでない! 私は、私はただ、芹と一緒に居たいだけなの!! その女から離れてよ!! アンタ、早く芹から離れて!!」

 そして、包丁を振り回しながら俺と環奈へ向かって来ようとした、その時、

「きゃっ、離して!! 離せぇ!!」

 駆けつけた警備員と警官によって、真美は取り押さえられた。

 こうして騒ぎは収まり、当事者の俺たちは警察から事情を聞かれ、一時間後くらいに解放された。

「悪かったな、巻き込んで」
「いえ、私だって関係ありますから……気にしないでください」

 車に戻る為に地下駐車場へとやって来た俺たち。

 車へ向かって歩いていた、その時、

「――ッ!?」

 突然腹部に何か強い痛みと衝撃を感じた。

「万里さん?」

 痛みのある腹を触ってみると、

「…………ッ、」

 手には血が付き、腹から血が流れ出ていた。

「万里さん!? い、いや……、だ、誰かぁ!!」
「……ッ」

 俺はその場に倒れ込み、環奈の悲鳴に近い叫び声が耳に入ってくる。

 倒れた時、ふと横に視線を向けると車の影から誰かがこちらを見ていた。

 それは痛みを感じる直前横を通り過ぎた女で、どこか見覚えのある人物だったのだけど、それを思い出す事が出来ないくらい、俺の意識は朦朧としていった。
< 49 / 74 >

この作品をシェア

pagetop