お前の全てを奪いたい【完】
 いつか、こうなる事は、何となく予想出来ていたのかもしれない。

 そりゃそうだ。

 金の為に女騙して、良い顔して、不要になったら切り捨てる。

 こんな事してたら、怨まれても、刺されても仕方ない。

 自業自得なんだ。

 環奈と出逢う前の俺なら、別にそんな最期を迎えても運命とやらを受け入れる事も出来ただろう。

 だけど、今は無理だ。

 俺はまだ、死にたくない……。

 ようやく見つけた、好きな人。

 何よりも、誰よりも愛おしいと思える人。

 そんな、この世で一番大切な環奈と離れるなんて、嫌なんだ。

 こんな事を思うのは狡いって解ってる。

 けど俺は、まだ死ねない。

 環奈との未来を……、歩んでいきたいから……。


「……っ、……」

 暗闇の中、誰かが泣いている声が聞こえてくる。

(この声は、環奈?)

 何も見えない暗闇の中を必死にもがきながら手を伸ばすと、

「万里さん!?」

 急に視界が明るくなったと同時に眩しさに俺が重い瞼をこじ開けると、

「……万里、さん……っ」

 大きな瞳に沢山の涙を溜めながら、環奈は俺の名前を呼んで手を握りしめてくれた。

「万里さん、良かった……目、覚ましてくれて……っ」
「……環奈……」

 イマイチ状況を理解しきれていない俺と安心したのか静かに涙を流している環奈の横から礼さんと明石さんが顔を見せてきた。

「万里、心配したぞ」
「連絡を受けた時は驚き過ぎて時が止まったよ」
「……礼、さん……明石、さん……」
「覚えてるか? お前、モールの地下駐車場で刺されたんだよ。処置が早かったおかげで大事には至らなかったが、少し遅れてたら命が助かったか分からねぇ」
「…………」

 二人の話を聞いて、こうなった時の記憶が徐々に蘇る。

(そうだ、確かあの時、すれ違った女に刺されたんだ……)

「万里、刺した相手に覚えはあるか?」
「環奈や目撃者の話によると、女だという事は分かってるんだが、誰かまでは分からねぇんだ」

 そう問い掛けられ、俺は意識を失う直前に目が合った女の姿を必死に思い浮かべる。

 その時、俺はある人物を思い浮かべながら、

「……あれは、もしかしたら、花蓮……かも、しれねぇ……」

 そう、名前を呟いた。
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