お前の全てを奪いたい【完】
 そして、花蓮と入れ違うように礼さんに連れられて、真美が俺の元へやって来た。

「……芹、久しぶり」
「ああ、久しぶりだな」
「……ここ、いい?」
「ああ」

 真美は向かいの席を指差して座っていいかを尋ねるから、俺は『ああ』と返事をする。

 真美はいつも隣に座っていたから、こうして向かいあわせで座るのは何だか少し違和感がある。

「……あの時は、ごめんなさい。私、馬鹿だった」
「いや、俺の方こそ……ごめん」
「ううん、芹は悪くない。私が全て悪いのよ」

 なんて言うか、真美は少し変わった気がする。

「……私ね、芹のこと、本当に好きだった」
「…………」
「好きで、好きで、堪らなく好きで、ここに来て、一番お金を使って芹の傍に居られたら、いつか私を見てくれるって思ってた、そう、信じてた」
「…………」
「だけど、違ってた。芹の瞳に、私は映って無かったね」
「――ごめん」
「…………だから、悔しかったの。芹が、キャバ嬢なんかに惚れてるなんてって……」
「……うん、そうだよな」
「でも、芹は、あの子がキャバ嬢だから好きになった訳じゃ、ないんだよね?」
「……そうだな、たまたま、出逢った場所がキャバクラだった……それだけだ」
「そうだよね。それに、ホストが客に本気になんか、ならないよね。お金があっても手に入らない物があるって、改めて分かったよ。もう現実見る。いつか、芹よりも格好良い男、捕まえてみせるわ」
「……真美」
「迷惑をかけて、本当にごめんなさい。最後に芹に会って、話が出来て良かった。芹との時間は、私にとって、大切な思い出だよ。ありがとう、芹……さようなら」
「……ああ、俺の方こそ、ありがとう。元気でな、真美」

 真美は、強い女だった。

 花蓮とは違い、笑顔を浮かべながら俺の元を去って行った。

「…………ふぅ……」

 離れた場所からは相変わらず楽しそうな声が聞こえてくる。

 一人になった俺は大きく息を吐くと、何気なしに店を見渡した。

 まさか俺が、ここを辞める日が来るなんて、思いもしなかった。

 当たり前にあった風景は、今日で見納め。

 これからは、新たな場所でオーナーとして、キャストたちを育てていく事になる。

 俺みたいな馬鹿な事はさせない。

 金の為とか、そういう考えは捨てさせて、真摯な態度で接するよう、教育していこう。

 なんて思いながら、慣れ親しんだ景色を目に焼き付けていく。

 そして、パーティー開始から約三時間程でお開きとなり、『芹さん、今までお疲れ様でした!!』そんな言葉と共に花束を渡された俺は、「ありがとう」という言葉を残し、笑顔で店を後にした。
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