お前の全てを奪いたい【完】
「ただいま」
「おかえりなさい、万里さん」

 タクシーで自宅マンションへ帰って来た俺は、部屋に着いて環奈の顔を見た瞬間、思わず表情が緩む。

「わぁ、お花! 綺麗ですね。早速花瓶に移しましょう」
「ああ、頼む。俺、シャワー浴びるわ」
「はい」

 手にしていた花束を環奈に渡し、俺はそのまま脱衣場へ向かった。

 シャワーを浴び終えてリビングへ戻ると、テレビ横の棚に先程の花が飾られていた。

「はあ……疲れたな……」

 花を眺めつつ、俺はソファーに身体を沈めながら息を吐く。

「お疲れ様です。万里さん、何飲みますか?」
「そーだなぁ、さっきは全然飲んでねぇから、ビールでも飲むかな」
「分かりました」

 言って環奈は冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、

「はい、どうぞ」

 俺の横に座りながら缶を手渡してくれる。

「サンキュー」

 缶を受け取った俺は開栓するとすぐに勢い良く喉へと流し込む。

「万里さん、そんな飲み方は駄目ですよ?」

 無茶な飲み方を咎められた俺は飲み口から離してテーブルに缶を置くと、そのまま環奈を抱き締めた。

「……万里、さん?」
「……悪い、少しだけ、こうさせてくれないか」

 何だか妙に胸の奥がザワついていて温もりが欲しかった俺は環奈を抱き締めたまま、暫くこうしていたいと告げる。

 そんな俺の気持ちを汲んでくれた環奈が俺の背に腕を回すと、

「いいですよ。私も、万里さんにくっついていたい気分でしたから」

 そう言いながら、俺に負けじとぎゅっと抱き締め返してくれた。

 店では気を張っていたから何とも無かったけど、自宅に帰り、環奈の顔を見たら気が緩んだのか、色々な感情が一気に押し寄せて来た。

「……真美さんや花蓮さんと、お話、できましたか?」
「……ああ」
「そうですか。それなら、良かったです」

 環奈は、俺がどんな事で元気を無くしているのか分かってる。

 それが分かるからこそ、彼女の前では、自分の弱い部分を出せるんだ。

 本当は、こんな格好悪い部分見せたくないけど、弱い部分を見せられる相手っていうのも、必要なんだと思う。
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