お前の全てを奪いたい【完】
「うわぁ、綺麗」

 夕方、自宅を出た俺たちは、夕飯を外で済ませてから環奈の希望通り、例の海岸へとやってきた。

 この場所は、俺たちにとって、思い出深い場所だ。

 環奈が喜多見に面と向かって別れを告げ、俺の事が一番大切だと言ってくれた場所。

 ここから、俺たちは本当の意味で、繋がれたと思ってる。

 そして、あの日もこんな風に、綺麗な星空だった。

「ねぇ万里さん」
「ん?」
「実は私、子供の名前、これがいいなって思うものが、あるんです」
「え?」
「勿論、これまで候補に挙げてきた名前も素敵なものばかりで迷っていたのは本当なんですけど……ここへ来て、やっぱりこの名前が良いなって、思えたんです」
「それじゃあ、環奈がここへ来たかった理由ってのは……」
「本当にこの名前を付けたいって思えているのか、確認する為です」

 環奈の突然の言葉に驚きはしたものの、ここへ来て付けたい名前が決まるというのは、余程の事なんだろう。

「それで、どんな名前なんだ?」
「男の子は、海に万里さんと同じ里の文字を使って海里(かいり)、女の子は、星に私と同じ奈の文字を使って、星奈(せいな)……っていうんですけど……どうでしょうか?」
「海里と星奈……」
「あの日、ここで海を見た時、水面に浮かぶ星空が凄く綺麗で、それをふと思い出した時、子供に『海』と『星』の文字を入れたいなって…………ここは、万里さんとの、思い出の場所でもあるし、確証はないけどこの子たちは…………あの日、万里さんと身体を重ね合わせた時に宿ったのかもしれないなって……思ったから……」

 大きく膨らんだ自身の腹を撫でながらそう言った環奈。

 実は俺も、密かにそうだったらいいなと思ってた。

 あの日は一番深く繋がり合って、一番、幸福を感じた夜だったから。

「よし、子供の名前は、海里と星奈。それで決まりだ」

 そう言いながら俺は環奈を優しく包み込むように抱き締める。

「本当ですか? 万里さんも付けたい名前、ないですか?」
「いい名前じゃねぇか。俺らの子供に相応しい名前だ」
「万里さん……」

 そして環奈も、俺の背に腕を回して抱き締め返してくれる。

 もうすぐ生まれてくる、二つの命。

 俺と環奈にとって、かけがえの無い、宝物になる。

 こうして二人の時間が取れなくなるのは淋しい気もするが、そんな事を忘れてしまうくらい、今以上に幸せを感じられるんだろうなと、俺は思う。

「――環奈」
「……万里さん……」

 腕を離し、向かい合う形になった俺たち。

 視線がぶつかり合い、どちらからともなく、キスをする。

 啄むような優しいキスを何度か交わし、

「環奈、好きだ……本当に本当に、大好きだ」
「私も、万里さんの事が…………大好きです」

 愛の言葉を口にし合った俺らは、誰もいない海岸で光り輝く星空の下、幸せに浸りながら何度も何度もキスを交わし、愛を確かめ合うのだった。


― END ―
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