お前の全てを奪いたい【完】
「こんな所で話してないで、中入って下さいよ」
「いや、今日はこれを渡しに来ただけだし、すぐ帰らなきゃならねぇから、ここでいいよ」
「これは?」
「明石さんのお子さんが着ていた洋服です。満里奈さんからお話いただいて譲ってもらう約束だったんですけど、満里奈さんの体調が優れないみたいなので、明石さんが代わりに届けてくれたんです」
満里奈さんっていうのは明石さんの奥さん。気さくで頼れる姉貴って感じの人で、俺や環奈は子育てのノウハウを教わっていたりする。
「そうだったのか。けどいいんすか? 明石さんのとこだって三人目生まれるのに」
「俺のとこは今回男だからな、女ものは着せないから良いんだよ。うちの娘たちは成長早くてすぐ着れなくなって困ってたんだ。貰ってやってくれ」
「すみません、ありがとうございます」
明石さんのところは七歳と五歳の娘がいる。そしてあと数ヶ月で三人目が生まれるとあって、現在彼は育児休暇中でオーナー業は下っ端に任せているのだ。
職場も近いし、休暇前までは毎日のように顔を合わせていたけど、ここ最近は子育てに忙しかったようで顔を合わせたのは実に数ヶ月ぶりだった。
「あー! かいりのばか!! パパー、かいりがまたいじわるしたー!」
そこへ、再び喧嘩をしたらしく、星奈が大声を上げて訴えかけてくる。
「ほら、星奈が呼んでるぞ? それじゃあ、俺もそろそろ帰るわ。またな、万里、環奈」
「はい、ありがとうございます」
「わざわざありがとうございます。今度時間出来たら久々に飲みましょうよ、明石さん」
「ああ、そうだな」
手をひらひらさせながら明石さんはエレベーターの方へ向かって歩いて行くのを俺と環奈は笑顔で見送った。
そして、
「ママぁ! パパぁ! かいりがいじめるぅ!」
なかなか戻って来ない俺たちに痺れを切らせた星奈が泣きべそをかきながら俺たちの元へやって来た。
「もう、海里? どうしてすぐに星奈に意地悪するの?」
「おれ、そんなことしてねーし!」
「したもん!!」
何て言うか、二人の喧嘩の発端は高確率で海里が星奈にちょっかいを出すからだ。
仲良く遊んでるかと思えば、すぐに喧嘩する。
俺も環奈も兄弟が居ないから兄弟喧嘩っていうのに慣れてねぇ事もあって、こうもすぐに喧嘩する事が不思議で仕方ない。
「ほーら、これ以上喧嘩するなら今日はどこも出掛けねぇぞ」
このままでは埒が明かないと思った俺がそう口にすると、
「やだ!」
「おでかけする!」
二人は急に言い合いを止めて俺に詰め寄ってくる。
「喧嘩しないって約束出来るなら、今から良いとこ連れてってやる」
「いいとこ!?」
「どこ!?」
俺の言葉が気になった二人はどこに行くのかと瞳を輝かせながら聞いてくる。
俺はしゃがんで二人と同じ目線に立つと、
「喧嘩しないって約束出来るか?」
もう一度、喧嘩をしないと約束出来るか尋ねた。
「しない!」
「うん! しない!」
まあそうは言っても、何かあるとすぐ言い合いになるから、二人の『しない』という言葉はあまりあてにはならないけどな。
「よし、それじゃあ着替えて出掛けるぞ」
こうして、俺たち一家はとある場所へ出掛ける事になった。
「いや、今日はこれを渡しに来ただけだし、すぐ帰らなきゃならねぇから、ここでいいよ」
「これは?」
「明石さんのお子さんが着ていた洋服です。満里奈さんからお話いただいて譲ってもらう約束だったんですけど、満里奈さんの体調が優れないみたいなので、明石さんが代わりに届けてくれたんです」
満里奈さんっていうのは明石さんの奥さん。気さくで頼れる姉貴って感じの人で、俺や環奈は子育てのノウハウを教わっていたりする。
「そうだったのか。けどいいんすか? 明石さんのとこだって三人目生まれるのに」
「俺のとこは今回男だからな、女ものは着せないから良いんだよ。うちの娘たちは成長早くてすぐ着れなくなって困ってたんだ。貰ってやってくれ」
「すみません、ありがとうございます」
明石さんのところは七歳と五歳の娘がいる。そしてあと数ヶ月で三人目が生まれるとあって、現在彼は育児休暇中でオーナー業は下っ端に任せているのだ。
職場も近いし、休暇前までは毎日のように顔を合わせていたけど、ここ最近は子育てに忙しかったようで顔を合わせたのは実に数ヶ月ぶりだった。
「あー! かいりのばか!! パパー、かいりがまたいじわるしたー!」
そこへ、再び喧嘩をしたらしく、星奈が大声を上げて訴えかけてくる。
「ほら、星奈が呼んでるぞ? それじゃあ、俺もそろそろ帰るわ。またな、万里、環奈」
「はい、ありがとうございます」
「わざわざありがとうございます。今度時間出来たら久々に飲みましょうよ、明石さん」
「ああ、そうだな」
手をひらひらさせながら明石さんはエレベーターの方へ向かって歩いて行くのを俺と環奈は笑顔で見送った。
そして、
「ママぁ! パパぁ! かいりがいじめるぅ!」
なかなか戻って来ない俺たちに痺れを切らせた星奈が泣きべそをかきながら俺たちの元へやって来た。
「もう、海里? どうしてすぐに星奈に意地悪するの?」
「おれ、そんなことしてねーし!」
「したもん!!」
何て言うか、二人の喧嘩の発端は高確率で海里が星奈にちょっかいを出すからだ。
仲良く遊んでるかと思えば、すぐに喧嘩する。
俺も環奈も兄弟が居ないから兄弟喧嘩っていうのに慣れてねぇ事もあって、こうもすぐに喧嘩する事が不思議で仕方ない。
「ほーら、これ以上喧嘩するなら今日はどこも出掛けねぇぞ」
このままでは埒が明かないと思った俺がそう口にすると、
「やだ!」
「おでかけする!」
二人は急に言い合いを止めて俺に詰め寄ってくる。
「喧嘩しないって約束出来るなら、今から良いとこ連れてってやる」
「いいとこ!?」
「どこ!?」
俺の言葉が気になった二人はどこに行くのかと瞳を輝かせながら聞いてくる。
俺はしゃがんで二人と同じ目線に立つと、
「喧嘩しないって約束出来るか?」
もう一度、喧嘩をしないと約束出来るか尋ねた。
「しない!」
「うん! しない!」
まあそうは言っても、何かあるとすぐ言い合いになるから、二人の『しない』という言葉はあまりあてにはならないけどな。
「よし、それじゃあ着替えて出掛けるぞ」
こうして、俺たち一家はとある場所へ出掛ける事になった。