初恋が叶わなった日
小学5年生の冬。
あの日、初めて喧嘩した。内容は、しょうもないことだった。朱音は、よく話して誰とでも仲良くなれる感じの性格だったからなのか、あまり喋らない私とも話してくれるようになった。
私にとっては最高の友達だった。
だけど、あの日喧嘩をした。理由は好きな人が一緒だった。
お互い初恋だった。
最初は朱音からだった。
『ねぇ、咲良ちゃん。クラスに好きな子とか居る?私はね、ゆうきくんのことが好きなんだ。だってクラスの中で1番かっこいいんだもん。』と聞かれた。
だけど、答えられなかった。私もその男の子のことが好きだった。
『私は、居ないよ。ゆうきくん、かっこいいよね!』
『やっぱり!さくらちゃんもそう思うよね。』
私は自分の言葉に嘘をついた。
それも相手に嫌われなるためだった。もし、同じ人を好きと言えばどうなるんだろう?ずっと友達でいることはできるのだろうか。
『朱音はどうだっていいでしょう。』
人間は嫌いだ。
口を開けば誰かの悪口しか言わない。
なんでだろう。なぜ人は誰かの悪口を言うのだろう。
中学の卒業の時、朱音が私の悪口を言っていたのを聞いた。
あの日から私は、親友も友達も先生、自分の親も信じることが怖くなった。
『朱音ちゃんと何かあったの?』
『何も無いよ。ただ、学校が嫌いなだけだから。朱音とは何も無いよ。』お母さんには言えなかった。
自分の娘がクラスの子にいじめを受けてるなんて知ったらきっと悲しむと思った。
だから、伝えることが出来なかった。
『なら全然、学校に行けるじゃない。入学式に休んだりしたら友達もできないわよ。それに朱音ちゃんも咲良が来るの待ってるわよ。早く起きて準備しなさい。』
私は、入学式に行ったから友達ができないとは限らない。
入学式に行かなくっても友達なんて出来ると考えていた。それに朱音は私と違って明るく、誰とでも仲良くなれる性格。
私とはほんとに真逆だった。
入学式なんてほんとに行きたくないけど、お母さんのためにも私は入学式の準備をした。
『おはよう、お母さん。ごめん、入学式行くよ。』
『おはよう、咲良。あら、制服よく似合ってるじゃない。咲良は可愛いんだから、高校になったら彼氏も友達もすぐにできるわね。朝ごはんできてるから早く食べなさい。時間ないわよ。』
『分かってる。彼氏も友達もできるか分からないよ。』
私は母にそう言った。
母は笑顔になった。
朝の母はいつも怒っていた。
笑っていることはない。
『そうね、今からだもんね。いってらしゃい。』
『行ってきます。』
そう母に伝え、笑顔で家を出た。
季節は春。
まだ少しだけ風が冷たかった。駅に着くと、制服を着ている人達が沢山いた。私もその中の一人だけどね。
今日はどこの学校も入学式なんだ。
そんなことを考えながら、電車を待っていた。
すると、向こう側の方から笑顔で走ってきていた。
それは朱音だった。
『はぁはぁ、疲れた。朝から走ると疲れるね。てか、おはよう咲良。』
息を切らしながら、朱音は私に言った。
なんで、走ってくるんだろう。わざわざ走らなくっても私はどこにも行かないのに。
『おはよう、朱音。大丈夫?』
『大丈夫。咲良が入学式に顔出すなんて珍しいなぁって思って。見つけて走ってきちゃった。』
私は学校の入学式なんて一度も出たことがなかった。
入学式が嫌いになったのはあの出来事があったから。