Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「何も怖いことなんて起きないから」
「何も……起きない?」
「あぁ、俺が守ってやる」
穏やかな口調、あったかい手……
不思議だ。あれほど冴えていた目が、心地よさに引きずられるようにとろとろと閉じていく。
そして揺蕩うまどろみの中で、その手を想う。
この手、この温度……
あぁそうだ、昨夜も感じたんだっけ、“知ってる”と。
これは……そう。
あの時に似てる。
あの時……事件の後。
――大丈夫だよ。落ち着いて。
病院にお見舞いに来てくれた、学くん。
――ほら、深呼吸してごらん。
――一回、二回、ほら、大きく吸って、吐いて、そう、上手だ。
事件のフラッシュバックから過呼吸になった私の頭を、こうして何度も優しく撫でてくれた。
あぁそうだ。なんだかすごく、あの時の学くんの手に似てる。
大きくてあったかくて、不安も恐怖も、何もかも溶かしていく手……
ふふ、って微かに苦笑する。
似てる、なんて失礼だよね。
学くんとクロードさんは、別の人間なのに。
心の中でつぶやくのとほぼ同時に、私はそっと意識を手放した。