Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

「辛い時は泣いていい。それはちっともおかしいことじゃない。俺は君の夫だろう? 俺の前では無理するな」

コート越しにじんわり伝わる、彼のぬくもり。
普段のクールな姿からは程遠い、熱すぎる言葉と声音。

必死に抑えていた最後の何かが押し流されていく――あぁ、やだ、ダメだ。
ダメなのに、……

「ふっ、……っ……っごめ、ごめんなさ……」

彼のコートにきつく爪を立てる。

荒れ狂う激情を、もう止めることなんてできなかった。


「お父さん……お父さんっ……ごめんなさいぃっ、お父さっ……ぁあああっっ……!」


ダジャレ好きなお父さん。
笑顔のお父さん。
大好きなお父さん。

もう二度と会えない、お父さん……


「ひぃ……ぃくっ……ぅっ……ふぇ」

受け止めてくれる人がいる安堵からなのか、後から後から、熱い涙が溢れてくる。


「それでも俺は、茉莉花が生きていてくれてよかった。心からそう思う。きっとお義父さんも、そう思ってるだろう」


メイクももうぐちゃぐちゃ。
きっとひどいカオになってるだろうなと思うのに。

それでもクロードさんは呆れたりせず、子どもみたいにみっともなく泣きじゃくる私の頭をあやすように撫でてくれる。


――ほら、深呼吸してごらん。

あぁほら、やっぱり。
私はこの温度を知って……

< 129 / 402 >

この作品をシェア

pagetop