Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
クロードさん、こんなところに来るなら一言言ってくれなきゃ……。
目立つサイズの外車から降りたからだろう。
あっという間にブランド物で着飾った紳士淑女のゲストにチラチラ注目されてしまい、居たたまれなくなる。
そりゃ、私は彼のおまけだってわかってますが……と吐息をつき、運転席側からやってくるクロードさんを待っていた。
そこへ、カツカツと近づく靴音。
「ベッカー様」
声の方を振り向けば、黒のスーツに身を包んだ長身の女性がキビキビした動作でやってくる。
落ち着いた雰囲気だし、年齢は40代前半くらい?
黒髪をきりりとアップにした、キャリアウーマンっぽい人だった。
「お待ちしておりました、お久しぶりでございます」
「貴子さん、彼女が俺の妻、茉莉花だ」
隣へやってきたクロードさんが、私の背中に手を添えて言う。
「茉莉花、こちらはギャリオンの副支配人、井上貴子さん」
え、えぇえっ副支配人!?
「ははじめましてっ」と急いで腰を折る私へ、井上さんは上品に微笑み丁寧に頭を下げてくれた。
「お会い出来て光栄です。茉莉花様。当ホテルの副支配人を務めております、井上貴子と申します」
おぉ、なんだかデキる女ってオーラがすごい。
女性で副支配人って、きっとすごいことよね? 今度香ちゃんに聞いてみよう。
「じゃ、後のことは頼んでいいかな」
「もちろんでございます。すべてお任せくださいませ」
頭上で交わされる長身2人の会話。
置き去りにされた私には、何のことかさっぱりわからない。
「茉莉花、準備は彼女に任せてあるから行ってこい。俺からのバースデープレゼント第一弾だ」
行ってこい??
プレゼント第一弾??
「えぇと、それって一体……」
「楽しんでくれればいいってこと。後で迎えにくる」
一方的にそんなドヤ顔で言われても……と困惑する私の頭をくしゃっと大きな手が撫でる。
途端にどこかから黄色い悲鳴が聞こえ、ギョッとした。
うわ、いつの間にこんなにギャラリーが!?
ここは移動した方がよさそうだ。
「さぁ茉莉花様、参りましょう」
そう促す井上さんにコクコク頷いて、再び車に乗り込むクロードさんとはそこで別れたのだった。