Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
そうして井上さんに連れてこられたのは、ホテル内のエステ。
どうやら、クロードさんの言っていたプレゼント第一弾というのは、全身エステのことらしい。
奥まった個室に通された私は、紙ショーツだけを身に着けて横たわる。
施術を担当してくれたのはなんと副支配人ご自身(!)。
実はもともとパリのホテルでエステティシャンをしていて、アルバイト的にメイドとしても働いていたところ、いつの間にか本業と逆転していたんだって。
「力加減はいかがです?」
「んんー……ちょうどいいですー……」
アロマオイルのいい匂いに包まれて、全身が脱力していくのがわかる。
しかも私好みの強めの力加減が絶妙なんだ。あー幸せ。
「よろしゅうございました。肩から肩甲骨にかけて大分凝ってらっしゃいますね。集中的に解していきましょう」
「あー……そこそこ! あー最高……こんなに気持ちいいマッサージ初めてですー」
「気に入っていただけたようで、よかったです。ピカピカになって、旦那様にも喜んでいただきましょう」
「喜んで……くれますかね?」
「決まってるじゃありませんか。あの方のあんな楽しそうなカオ、初めて拝見いたしました。ビジネスのこと以外ご興味なさそうでしたのに、やはりご結婚されると変わるものなんだとびっくりしたくらいです」
た、楽しそう?
彼を知ってる人が言うんだから、そうなんだろうか。
なんとなく気持ちが弾んで、顔までトケそう。
うつ伏せになっててよかった。
「井上さんは、クロー……しゅ、主人のこと昔から知ってるんですか?」
「はい、存じております。以前ロサンゼルスのシェルリーズホテルで働いておりました時に、ベッカー様がお父上の出張に同行されてご宿泊に。日本人スタッフが珍しかったんでしょうね、以来ご宿泊の折は必ずお声をかけていただきました」
それって、彼がシェルリーズの常連客みたいな言い方……。
コク、と喉が鳴る。
「彼のお父様もすごい方、なんですよね?」
「えぇ左様でございます。アメリカのビジネス界で知らぬものはいないという重鎮ですわ」
ひえぇ~……。
確かお義父様も、アメリカで自分の投資会社を経営されてるんだっけ。
ネットを介してご挨拶した時は、すごく気さくな方で、セレブなオラオラオーラなんて感じなかったけど……
そういえば、日本の家族とはもう連絡取ってないのかな。
一体何があったんだろう?
生みの親と絶縁するなんて、私にはとても想像できない。
もちろん、そんなの知らなくたって、彼を想う気持ちは揺らがない。
とはいえ、できれば知りたい、というのが本音。
だって彼は私の事いろいろ知ってるのに、なんだか不公平じゃない?
井上さんに尋ねてみようかともチラッと考えたが、やめておいた。
こういうことは直接聞いた方がいいよねって思ったから。
いつか、気兼ねなく聞ける日が来たらいいなぁ。