Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
全身のアロママッサージの次は、フェイシャルマッサージとフェイシャルエステ。
むくみも取れて、一回り小さくなったような気がする顔はツルッツルスベッスベ。もうその時点で、すでに天国みたいなラグジュアリー体験だと思っていたのに……。
最後の仕上げと言われて案内された隣接のパウダールームへ――入るなりぽかんと立ち尽くしてしまった。
ハンガーラックにかかった1着のドレスが、視界へ飛び込んできたから。
「これ……」
色は、落ち着いたブルーグレー。
総レースの袖ときゅっと絞られた腰、流れるような裾が目を引く、エレガントなマーメイドドレスだ。
「こちらも旦那様からのバースデープレゼントでございますよ。さぁお召替えを」
「でも、ええと、これかなりほそっ……入るかな」
破れちゃったらどうしよう。
本気で心配する私を、井上さんは朗らかに笑い飛ばす。
「あら、あの方の審美眼に狂いはございませんよ。きっとお似合いです。まぁ試しに着てみてくださいな。その後、ヘアメイクもお洋服に合わせますからね。少々お急ぎを」
着ていただけなかったら私が叱られます、とまで言われたら、着ないわけにはいかないじゃない?
私はおそるおそる、ドレスへと手を伸ばした。
◇◇◇◇
着替えとヘアメイクとを終えてから、井上さんと一緒に待ち合わせの1階ロビーへ向かった。
ゆっくり時間をかけて施術してもらったせいか、外はすっかり暗くなっている。
「ほら、茉莉花様。旦那様がお見えになりましたよ」
さっきから妙に周囲の視線を感じて落ち着かなかった私は、それほど待つこともなく彼が来てくれてホッとした。
き、気に入ってくれるかな?
鏡見て叫んじゃったくらい、自分では(いい意味で)激変したと思ってるんだけど……と心の中でつぶやきながら、ゆったりとした歩みで近づくその人へ視線を向けた。
う、わ――カッコ良……
彼の方も着替えたらしく、さっきとは違う装い。
私のドレスに合わせたんだろうなっていうブルーグレーのネクタイとポケットチーフをアクセントに、全身ブラックのスリーピーススーツが憎らしいくらいに似合ってる。
上から下まで、男の色気と言うかフェロモンと言うか、いろいろ駄々洩れまくったその姿は、まさに王者の風格と主役の輝きがある。
当然というか、周囲の視線、特に女性の視線も集めまくってる。