Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
カツン、と革靴が音を立てて私の前で止まった。
「く、クロードさん、あの……このドレス、とっても素敵です。いろいろ手配してくださって、ありがとうございました」
彼の目に映る自分が気になりすぎて、どうしたらいいのかわからない。
早口の上ずった声でとりあえずのお礼を言い終え、返事を待った。
「…………」
「…………」
ん?
この沈黙は一体? とおずおず顔を上げれば、あからさまに視線が逸らされてしまい、大ショック。
うそぉ……まさかのゼロ回答って、つまり似合ってない!?
自分ではすごく似合ってると思っていただけに、テンションは急降下だ。
「あら、ベッカー様、口下手なところは相変わらずですね。ちゃんと言葉にしないと、女性には伝わりませんよ?」
井上さんのフォローがむなしく響く。
せっかくいろいろやってもらったのに、素材が悪いせいで申し訳ない。
もうちょっと胸が大きかったら、もうちょっとウエストが細かったら、もうちょっと足が長かったら……
あぁダメダメ、せっかくの誕生日なのに私がテンション下げてたら。
ここはお父さんのダジャレでも使って、無理やり笑いにもってくべきでは?
何か使えそうなヤツはなかったっけ?
頭の中で目まぐるしく考えていると、
「……すまない」
ん? 空耳?
首を傾げれば、続いて聞こえたのはどこか決まり悪げな咳払い。
「その……、一瞬日本語が全部頭から吹っ飛んでただけだ」
「はぁ」
日本語が吹っ飛ぶ?
そういえば、ウェディングフォト撮影の時も同じこと言われたような……
「似合わないとか、考えてたわけじゃない。その反対だ。とても似合ってる」
「ほ、ほんとですか?」
一気に緊張が緩んだ。
脱力したまま、あぁよかったと笑みを向けたら、今度は真っすぐ視線が絡んで――ドキッと心臓が音を立てた。