Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「いや、似合ってるなんて言葉じゃ足りないな。……美しい。現実のものとは思えないほど」
「や、それはその、褒めすぎ、です」
その瞳の奥に炎のように揺らめく仄暗い何かを見つけた気がして、私は落ち着きを失っていく。
だって、それはまるで……
……バカね茉莉花、何おかしな想像してるの。
彼が私に、欲情してくれている、なんて。
彼はそんなこと、興味ないのよ?
自嘲気味に嗤い、軽くかぶりを振る。
周囲の雑音を圧倒する心臓の音と自分勝手な妄想から、意識を逸らすために。
「素敵なドレスのおかげです。馬子にも衣装ってやつ。ふふ。行きましょうか? クロードさん目立つから、人が集まっちゃってますよ」
事実私たちはすっかり注目の的になっていたから、内心の動揺を押し隠して何でもない風を装い、促すように出口を指した。
「あぁ、そうだな。目立ってるのは俺じゃないが」
ぶつぶつ何かを言っていたクロードさんも状況は把握したようで――手を差し出された。
えっと……握、手?
戸惑う私へ、ちょっと焦れたように手が伸びてくる。
そうして強引に繋がれてしまった手は、瞬く間に指が絡まり……
まさかの恋人繋ぎ!?
「転ぶといけないだろう。また捻挫したらどうする」
言い訳っぽくぶっきらぼうに言ったクロードさんは、井上さんへ軽く反対側の手を上げてから歩き出す。
「あらあら、ふふふ。茉莉花様、素敵なバースデーを」
「あぁああの井上さんっ、ほんとにいろいろとありがとうございました!」
まるで拘束するように密着した手、時折私を気遣って振り返ってくれる視線……私の胸は、温かいもので満たされていく。
あぁ好きだな。
溢れそうな想いを飲み込み、切なさを込めた視線を向け――赤く染まった耳を見つけたけれど、あれはきっと照明のせいなんだろう。