Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
驚いたことに、サプライズプレゼントはそれで終わりじゃなかった。
次に連れていかれたのは、ホテルからそれほど離れていない、銀座のとあるジュエリーブランドの本店。
まさか、まさか、いやもう十分ですよ……と冷や汗を滲ませつつ、及び腰になってしまう私を引っ張るようにして、クロードさんは店のドアを開ける。
すぐに女性スタッフがすっ飛んできた。
「妻に合うものを探してるんだ。あぁ、いくつでも構わない。見せてもらえるか?」
やっぱりーっ!!
「く、クロードさんっもう十分です! こんな……」
言いつつショーケースにチラッと目を走らせるも、値札が見当たらない。
とはいえ誰もが知ってる世界的なブランドだし、ゼロが私の想像よりはるかに多いお値段であることは十分予想できた。
こんなの恐怖しかない――と一生懸命お願いしてるのに、暖簾に腕押しとでもいうのだろうか、全く聞いてくれない。
「本当に茉莉花は欲がないな。もっと強請ってくれていいのに。ねぇ、そう思いませんか」
「えぇまったく。謙虚な奥様ですわぁ」
いや、スタッフさんにそんなことで同意を求めないで欲しい。
謙虚とかそういう問題じゃなくてですね……
「だって、クリスマスにもこれいただいたのに、また、なんて……」
いつも身に着けててほしい、って頼まれて、今夜はブレスレットとして手首に巻きつけているクリスマスプレゼントのネックレスに触れる。
「妻を美しく飾りたいと思うのは、夫のエゴだ。茉莉花は、付き合ってやるかという程度に軽い気持ちで受け取ってくれればいい」
えぇええ、そんな楽しそうに言われても……。
誕生日だから?
特別な日だから、目いっぱい甘やかしてくれるの?
そんな風に甘やかしたら、つけあがるだけですよ?
期待しちゃうじゃないですか。
どうせ、今夜だって触れてくれないくせに……。
「じゃあ、あの、クロードさんも一緒に選んでください」
砂を噛むような虚しさを堪えて、明るい口調で言う。
「茉莉花が好きに選んでいいのに」
最初は不満そうに渋っていたクロードさんも、お揃いのデザインでネクタイピンやカフスも用意できると聞いて、興味を持ったようだ。
「じゃあまずはこれかな。それからあっちも試してみて……」
割とノリノリでショーケースを覗き込む彼を見つめて、私はそっと吐息を吐き出した。