Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
9. パーティーは危険につき
それから2週間が過ぎた、1月最後の日曜日、私は7つ星という最高評価を得るシェルリーズホテルに来ていた。
残念ながら泊まるためじゃなくて、バイトのためだ。
「ほんっとにごめんね、いきなり頼んじゃって。旦那さん大丈夫? 茉莉花が働くの、反対してたんじゃなかった?」
高い天井にいくつもの豪奢なシャンデリアが煌くここは、ホテル内で一番大きなホール。
私は支給されたシンプルなブラックスーツを着て、香ちゃんや他のスタッフと一緒にビュッフェ用のフィンガーフードをテーブルへせっせと並べている最中だ。
「うん大丈夫。彼、今、仕事が大変みたいでなかなか帰ってこないから」
「ふぅんそうなの?」
忙しく働く彼女は、こっちの強張った笑みには気づかなかった。
「ほんと助かったよー。今夜のパーティーは海外のゲストが多いから、英語できるスタッフができるだけたくさん欲しくて」
「喜んでもらえてよかった。頑張って働くね」
なんとか元気を装って言い、機械的に手を動かしていく。
やるべき仕事が目の前にあることがありがたかった。
少なくともその間は、余計なことを考えずに済むもの。
あの誕生日の夜から2週間、毎日陥っていた思考の沼を思い返して、私は軽く吐息をついた。
あの夜――持ち帰ったケーキをやけ食いしながらダイニングで眠ってしまった私は、朝になってようやくスマホにメッセージが届いていることに気づいた。
そして、前夜クロードさんが帰ってこなかったこと、そして仕事が立て込んでいて数日間留守にすることを知る。
結局彼が帰宅したのは3日後の夜。
寝ようかどうしようか迷って、リビングのソファでうとうとしていた時だった。
いそいそと出迎えた私を驚いたように見て、「わざわざ待ってなくてよかったのに」だって。
早く会いたいと思ってたのは自分だけなのかって、カチンときちゃって。
随分そっけなく「おやすみなさい」って言い捨てて、自分の部屋に戻ってしまった。
それ以来彼の寝室には行ってないし、当然添い寝もしてない。