Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
話したい気持ちはあるのに、その後も彼は出張やら残業やらで不在が多く、まともに顔すら合わせず、不安だけが募る中で時間が過ぎた。
私たち……大丈夫だよね?
縋るように祈る一方で、仕事なんてどこまで本当なのかと、疑ってしまう自分がいる。
実はどこかのホテルで女性と連泊してるんじゃないの?
性生活に興味ないんじゃなくて、私に興味ないんじゃないの?
お父さん直伝のダジャレで笑い飛ばそうと試みるも、さすがにこのシリアスな状況じゃ何も思い浮かばない。
いっそ会社に電話をかけてみようか、いやいや仕事の邪魔なんかしちゃいけない――いろんなことをぐるぐる考えて何も手につかず、悶々としていたところに、香ちゃんからの連絡。
バイトのお誘いは、本当にありがたかった。
もちろん彼には内緒。
後で知ったら気を悪くするだろうけど、もう知らない。
放っておく方が悪いんだから、って勝手に決めちゃったんだ。
「香ちゃーん、ねぇねぇ、これはどこに置けばいいの?」
調味料らしき瓶を積んだカートを押してやってきたのは、私と同じ黒スーツ姿の知依ちゃんだ。
「あぁ、それはあっちのシェフがいるブースに持って行ってくれる? 彼の言う通りに並べてくれればいいから」
「はーい了解」
軽やかにカートを押していく後ろ姿を見送った私は、「そういえば」と振り返った。
「どうして知依ちゃんまでここに来てるの?」