Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
バイトなんかして会社の方は大丈夫なのかな、と続ければ、香ちゃんは肩をすくめる。
「本人曰く、単発なら問題ないって。本当かどうかわからないけどね。彼女の方から言ってきたんだよ? 今夜のパーティー、バイトで潜り込めないかなって」
「も、潜り込む?」
穏やかじゃない言葉にたじろぐ私に、香ちゃんが声を潜める。
「なんかさ、仕事の関係で香坂さんも参加するんだって、このパーティーに。ところが知依は一緒に行ってくれないかと誘われなかった。もしかして他に連れて行く女がいるんじゃないか、って心配になったわけよ」
「あぁなるほど。それで偵察、みたいな?」
「そういうこと」
そういえば前の飲み会でも、彼の話題になったらなんとなく元気なかったっけ。
副社長と秘密の社内恋愛、なんて小説みたいで憧れるなぁと思ってたけど、それなりにいろいろ悩みがあるのかも。
まぁ私の結婚だって、はたから見たら夢みたいなシンデレラストーリー。
その裏で実はこんなに悩んでるなんて、誰も知らないもんね。
と、重くるしい視線を床に落としたところで――、
<お会いできてよかった、ご活躍のようで>
<いやいや、そちらこそ。アフリカへ進出されるとか>
<まぁアジアも飽和状態ですしね、グループのこれからもどうなるか……>
滑らかな英語が耳を掠めた。
正装した男女の姿がポツリポツリと見える。
気の早い参加者はもう入場しているようだ。
急がなきゃ、と私は作業する手を速めた。