Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
手を動かしつつ香ちゃんから小声でレクチャーを受けていると、お盆を持った知依ちゃんが「ねぇねぇっ」と小走りでやってきた。
「わたし相田莉穂子にシャンパン渡しちゃった!」
「え、相田莉穂子が来てるの?」
相田莉穂子と言えば、エステサロンを全国展開させている超やり手の女性実業家だ。SNSでセレブな暮らしも紹介していて、憧れてる女子は多い。
ほらほら、あそこ、と興奮気味の知依ちゃんが目配せしたあたりへ視線をやる。
そこでは一組のカップルが中心となって周囲を沸かせていた。
女性の方、豪華な深紅のイブニングドレスに身を包んだスレンダーな人は、確かに雑誌やテレビで見かけたことのあるあの顔だ。
「リーズグループって、美容分野にも進出してたっけ?」
「進出してたって不思議じゃないかも。病院や製薬会社も持ってたと思うし」
私と知依ちゃんが話していると、香ちゃんが「違う違う」と顔の前で手を振った。
「今夜は隣にいる男性の“連れ”として、来てるのよ。付き合ってるって噂だから」
そう言われて視線を横へ滑らせると、背はそれほど高くないが恰幅のいい男性が寄り添っている。相田莉穂子と同じ40代くらいだろうか。日本人じゃないな。彫の深い顔立ちは、東南アジア系のようにも見えるけど……
「あれ、うちの社長。李偉平」
えっ、シェルリーズの社長っ?
驚く私たちへ、香ちゃんが苦虫をかみつぶしたような顔を寄せる。
「ちなみに妻子アリ」