Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「リーズグループの懇親会って、あぁあれか、エントランスに案内が出てたな」
香ちゃんの紹介でバイト中なのだと説明すると、学くんは頷きながら私の手を取った。
手首へ指をあてながら、自分の腕時計を確認してる。
脈を測ってるんだろう。
その後、私の両目の下を引っ張ったり首を触ったりしてから、「貧血だね、少し休めばよくなるよ」と白い頬に笑みを刻んだ。
「すごいね学くん、なんかお医者様みたい。って、お医者様か」
「うん、実はそうなんだ」
おどけたようなウィンクもさすが王子、似合うわぁ。
「相変わらず優しいんだね、学くん」
「え、そう? 普通だと思うけど」
いやいや、普通はスタッフの体調なんて誰も気にしないよ。
さすがお医者様、っていうより、やっぱり彼の本来の性格だよね。
三つ子の魂百までっていうかさ。
15年前だって、散々お世話になったもの。
――大丈夫だよ。落ち着いて。
――一回、二回、ほら、大きく吸って、吐いて、そう、上手だ。
懐かしい言葉を胸の内で思い返していると、段々呼吸も落ち着いてきたみたい。
あぁ助かった。
「ごめんね。私なら大丈夫だから――」
もう行って欲しい、と言いかけた言葉を遮るように、手首をぐっと掴まれた。
「ま、なぶくん?」
「ねえ茉莉ちゃん。実は聞きたいことがあってさ」
手首から伝わる熱にちょっと驚きつつ視線を上げれば、どこか緊張をはらんだ眼差しとぶつかって、またまたびっくりする。
「う、うん、何?」
そういえば、誕生日のメッセージにも書いてあったっけ。
話したいことがある、って。
なんだろう。
誰か女の子を紹介して欲しい、なんて話じゃないよね?
モテモテな彼にそんな必要はないだろうし……と考えていたら、学くんの口から出たのは、予想外の名前だった。
「ご主人のこと、なんだけどね」