Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「日本人として生まれたんだけど、家族と仲がよくなかったみたいでね。10代の頃に家を出て、留学したんだって。それからアメリカで就職して、そこの社長さんに気に入られて養子縁組して。日本は二重国籍を認めてないから、アメリカ国籍を取得した時点で、日本国籍は放棄したってわけ」
「そっか、だから今はアメリカ人、ってことかぁ」
「なんか複雑そうだね?」
「うん……いろいろあったみたい。あまり詳しくは教えてくれないんだけど」
というか、実は全然教えてくれない。
昔のことは触れてほしくないみたいで、それ以上聞けないんだよね。
まぁ、私だって彼に何もかも話してるわけじゃないし……お互い様か。
「でもでも! 2人にとって大事なのはこれからだよ」
「そうそう、過去なんて関係ない!」
冴えない表情を心配したのか、一生懸命慰めてくれる2人。
ほっこりしながら、「うん、ありがとう。そうだよね」と私は微笑んだ。
それからひとしきり、ドレスやアクセサリーのブランド、撮影時の様子についての質問に答えていた私だったけど、ふと知依ちゃんの口数が少なくなっていることに気づいた。
「知依ちゃん? どうかした?」
「うん……ウェディングドレス姿の茉莉花ちゃん、おじさんきっと見たかっただろうなって思ったら……なんか、ね」
大きな二重の瞳が潤んで見えて、ハッとする。
彼女が“おじさん”と呼ぶのは、私の父――宮原昌行しかいない。
「きっと今ごろ空の上で祝杯挙げてるんじゃない? おばさんと」
「ふふっ、ご自慢のダジャレ全開で、おばさんから冷たい目で見られちゃったりして?」
「わ、おじさんのダジャレ、懐かし~!」
「うん……ほんとに、つまんないことばっかり言ってたよね」
小さく笑みすら浮かべて。
いつの間にか、冷静にやりとりできている自分に驚く。
お父さんのこと――あの時のことは、ずっと考えることさえ辛かったのに。
それだけ、長い時間が過ぎたってことなんだろうな。