Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
へ? クロードさんのこと??
意外な話題にきょとんと首を傾げる私を、怖いくらい真剣な、いや、深刻そうなカオが見つめる――
「待ってくれ! 話を聞いてくれ!」
「ついてこないで、放してっ」
奇妙な緊張は、いきなり響き渡った男女の険しい声であっけなく絶たれた。
何かトラブルだろうかと顔を見合わせた私たちは、一緒にそっと柱の影から覗く。
すると、やってきたのはなんと、知依ちゃんだった。
泣きながら細身の男性の手を振り払っている。
リムレス眼鏡をかけた優等生タイプのその人は、以前チラッと挨拶したことがある知依ちゃんの彼氏、香坂明良さんで間違いない。
「頼むから話を聞いてくれよ、知依!」
一生懸命言い募りながら、知依ちゃんの前へ回り込んで両肩をつかむ香坂さん。
数メートルの距離に潜む私たちには、まったく気づいていない、というより目に入っていないらしい。
「どうしてわたしをパーティーに誘ってくれなかったか、わかった。ちゃんとお相手がいたんだよね。バカみたい」
涙声にギョッとする。
え、香坂さん、女性と一緒に来場したってこと?
「違うよ。彼女は取引先のご令嬢。相手がいないから今回だけ一緒にって頼み込まれたんだ。心配すると思って言えなかった。ごめん」
「謝ったって遅いんだから! どうせずっとプロポーズしてくれないのだって、そんなつもりがないからなんでしょ!?」
「まさか! 僕が愛してるのは知依だけだよ」
宥めるように言って、小柄な身体を抱き寄せる。
「信じてくれ。僕には君しかいない。結婚するのも、君しかいないと思ってる」
「え……っ」
言葉を失った知依ちゃんは、こっちが赤面してしまうほど熱く、彼を見つめる。