Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
カン違い? ううん違う、本当に言われてない。
間違いない。
それって、それって、どうなの?
どういうこと? 普通?
さっき目にした、知依ちゃんと香坂さんが脳裏にチラつく。
身も心もつながった、幸せそうな恋人たちの姿。
あれが普通、だとすると。
私とクロードさんは……?
身体も重ねることなく、愛を囁き合うこともなくて。
こんなの夫婦なんて言える?
言えるわけないよ……ただの同居人だ。
「……りちゃん、茉莉ちゃん?」
「えっ?」
「大丈夫かい? まだ顔色がよくないよ。もう今日は帰ったら?」
心配そうな視線が注がれていることに気づき、とっさに笑顔を取り繕った。
「あ、ええと、ごめんね。平気平気。それで、なんだっけ。さっき学くん何か言いかけなかった? 確か、クロードさんのことだったよね?」
聞きたいことがある、って言ってたっけ。
無理やりテンションを引き上げて尋ねれば、学くんは「あぁ、うん……」と言ったきりその目を伏せて言い淀む。
「……学くん?」
どうしたんだろう?
何か、言いにくいことなんだろうか?
まったく見当もつかなくて、私は彼の返事を待つ――
「……っ!?」
声を上げる暇もないほど、それは一瞬だった。
背後からいきなり腕がぬっと伸びてきて。
気づいた時にはもう私の身体は絡めとられ、そのまま後ろに立つその人の広い胸の中に囚われていた。
「俺が、なんだって?」
エキゾチックなムスクの香りにドキッとするのと、地を這うような低音が頭上から降ってくるのとは、ほぼ同時だった。