Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「と、友達に頼まれて――」
「働く必要はないと、言わなかったか?」
「相談しようと思ったけど、クロードさんお忙しそうだったので」
精一杯の反論を試みると、背後の身体がピクリと反応した。一応、私を放っておいたって自覚はあるみたいだなと考えるにつれ、やっと冷静さが戻ってくる。
「あの、放していただけませんか。仕事に戻ります」
「ダメだ」
「……はい?」
ダメ? 何が?
「戻ることは許さない」
感情を乗せない声音、取り付く島もない決定事項のような口ぶりに、思わずムッとした。
なんでこんな風に言われなきゃならないの?
一体何が気に入らないのよ?
「何言ってるんですか。仕事を投げ出すことなんてできません」
苛立ちのままに無理やり気味に振り仰ぐと、やっと拘束は緩めてくれた――が。
「ホテル側には俺が言っておいてやる。今すぐ、このままタクシーで帰れ」
きちんと視線を合わせる前に、肩を掴まれて強引に出口方向へと押されてしまい、ギョッとした。
いや、めちゃくちゃでしょ。
「ちょっ、待ってください」
「人手が足りないというなら、俺の方で10人でも20人でも手配しておく。心配するな」
「そういうことじゃっ……」
強引でオレ様なところはありつつも、話はちゃんと聞いてくれる人だと思ってたのに……と、むくむく反発する気持ちが沸く。
「いい加減にしてください!」
次の瞬間には、自分に触れるその手を思いっきり振り払っていた。
驚いたように目を見開く彼を、もどかしい思いで睨む。
「私はあなたのお人形じゃないっ。どうしちゃったの、クロードさん。なんかおかしいですよ?」