Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
抗議も何もできなかった。
そのまま有無を言わさず地下駐車場へ連れていかれ、彼の運転で自宅マンションへ。
息が詰まるような無言の車内はかなりつらかったけど、幸い強制送還はあっという間に終了した。
「もう、放してくれませんか。……逃げませんから」
車を降りてからずっと、繋がれている手。
さっきは逃げちゃったから、警戒されてるんだろう。
これが溺愛と独占欲の証だったらいいのに、と埒もないことを考えてしまう自分がみじめで、リビングに着くと自分から振り解いてしまった。
振り返った彼は、払われた手を見つめてわずかに肩を落とす。
そして疲れたようにこめかみを押さえて、ソファへ腰を下ろした。
「茉莉花も座れ。ちょっと話がしたい」
長い睫毛を伏せた憂いげな表情は、相変わらず神様も贔屓が過ぎるよ、ってくらい美しい。
話の行先によっては、もう見納めかもしれないな。
漏れそうになった吐息を飲み込み、彼から距離を取って端の方へ浅く座った。
すると。
「まずは――謝る」
「はい、って、えっ?」
出鼻をくじかれてぽかんと口を開ける私へ身体を向け、彼は真剣な眼差しで私を見つめた。
「ここしばらく、ろくに家に帰れなくて悪かった。いろいろバタついていて……さっきは強引な真似をしたと思う。すまない。ただ、茉莉花の方から連絡があれば、何があっても対応した。例えばまとまった金が必要だとか。相談してくれたら、どんな額でもすぐに――」
「違いますっ! 私はただ、友達から人手が足りないから助けてくれって言われて……そもそも、私が外で働くと、何かクロードさんに迷惑をかけるんでしょうか?」