Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
どうしてそこまで私を働かせたくないの?
子どもがいるわけでもないし、家事だってちゃんとやってるのに。
「誰もそんなことは言ってない。もちろん働きたいなら働いても構わない。うちの会社はどうだ? 英語を生かして、自宅でできるような仕事を俺が持ってくるから――」
「こんな出来損ないの妻は外に出せないから、家の中に閉じ込めておきたいんですか?」
よく考えもせずに口から飛び出した台詞。
でも、とっさの言葉にしては、的を得てるかもしれない。
「それとも、近々新しい妻を迎える予定だから、古い妻は隠しておきたいとか」
「新しい妻? 何のことだ」
寄せた眉に、僅かに滲む苛立ち。
飄々としたいつものポーカーフェイスを崩せたことに、暗い悦びを覚える自分がいる。
「お綺麗な方でしたね、総帥さまのお気に入りなんでしょ? 彼女と結婚したら、次期総帥の座もゲットできるかもって。すごいじゃないですか」
精一杯虚勢を張って軽い口調で言ったら、「ユキのことか」と相手は息を呑んだ。
雪代、で、ユキ、か。
へぇ、親しそう。
「何を勘違いしてるのか知らないが、ユキとはそういう関係じゃない。ただの……友人だ」
容姿はハリウッド俳優並みでも、演技力があるわけじゃないのね。
“友人”という言葉の前、不自然に開いた間。一瞬だけ泳いだ視線。
言葉通りの“友人”じゃないって、バレバレだ。
ズキズキと軋む胸の痛みを無視して、私は乾いた笑みを浮かべた。
「妻の誕生日当日に、妻を放りだして会いに行くほどの仲なのに? 誤解されても仕方なくないですか?」
震える声で続ければ、案の定彼は「どうしてそれを」って言葉を失っている。あぁやっぱりね、とますます心が冷えていった。