Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「え……?」
「言ってくれ、もう一度。俺が好きだと」
切羽詰まったような、それでいてどこか甘い、掠れた声が頭上から降ってきて、熱に浮かされたような危うげな視線が注がれる。
いつもの紳士な仮面をかなぐり捨てたような態度に、どうしたんだろうと見つめ返し――ハッとした。
好きだと言ってくれ?
そうだ、私さっき……“好きな人”って……
同時に、思い出した。
クロードさんだけじゃない、私もまた、好きだとか愛してるとか、そういう言葉を今まで一度も伝えてないってこと。
何やってるのよ。
これじゃ、彼の事非難できないじゃない。
気まずい思いで視線を上げれば、キラキラ……いや、ギラギラした眼差しとぶつかった。ソファに縫い留められているこの態勢もあり、なんだか肉食獣に掴まったウサギの気分。
あぁっもう、なんで今更こんな展開になってるの?
高橋さんのことはいいんですか?
ブツブツぼやいて、なんとか誤魔化せやしないかと視線をうろつかせるが、お見通しとばかり顎をつかまれてしまう。
そして。
「茉莉花」
甘やかな眼差しにのぞき込まれ、誘うように強請られて――……あぁダメだ、とあっさり完落ち。
観念した私は、ゆるゆると、震える唇を開いた。
「……好き、です。クロードさんが、好き。好きじゃなかったら、結婚なんて――っんんぅっ……!」
やけくそみたいに続けた言葉が、ブツっと途切れる。
唇が、彼のそれに塞がれてしまったから。
「はぁっ……な、にっ……んん、んぁっ……」