Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
ふわふわ、身体が浮いている。
ううん、これはお姫様抱っこだ。
うっすら瞼を開ければ……視線に気づいたクロードさんが、応えるように優しく微笑んでくれた。
丁寧に降ろされた先は、ゆったりとしたベッド。
いつの間にか着せられていたTシャツが、さらさらと衣擦れの音を立てた。
覚えのあるスプリングの感覚、ムスクの香り――彼のベッドだ、と気づいて、夢に片足をつっこんだような頭でへらりと笑う。
彼は、さっきまでの強引さとは真逆の繊細な手つきで掛け布団をかけてくれてから身体を起こす。
「クロード、さん」
一緒に寝てくれないの?
心の声が聞こえたみたいに、その人は困った様に眉を下げる。
そしてもう一度かがみこむと、「戻らなきゃならない。仕事があるんだ」と私の頭をあやすように撫でた。
「帰ってきたら、話したいことがある。いや、話さなきゃいけないこと、だな」
「話さなきゃ……?」
身体は重怠く、頭の中はまだふわふわしていて。
きちんと動いてくれない。
ただ、頭の隅を微かな不安が掠めた。
私を見下ろす彼の顔に浮かんでいたのが、いつもの自信たっぷりな笑みじゃなくて、どこか哀し気な微笑だったから。
「クロード、さ……」
「ゆっくりおやすみ、茉莉花」
クロードさんはまるで私の言葉を封じるように低い声で言い、ちゅっと軽いキスを私の額へ落とすと、離れていった。
待って。
ねぇ待って。
もうちょっと話を……あぁダメだ、眠すぎて。
明日の朝にしよう。
明日の朝になったら……
私の意識はたちまち白くぼやけていき、沈んでいった。