Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

すっかり気分を持ち直した私のTODOリスト最上位は、お買い物。

彼との関係に悩んで情緒不安定だった2週間ほど、ろくな自炊をしてなくて、冷蔵庫はほぼ空っぽなんだよね。
しっかり補充しておかなくちゃ。
クロードさんがいつ帰ってきてもいいように。

むふふ、と自然に緩んでしまう口元を引き締めて、身支度を整えた。

買い物の前に、どこかのカフェで朝ごはんというかブランチを食べて行くことにして、私はエレベーターで1階へ降り――あれ、と首を傾げた。

エントランスに常駐する顔見知りのコンシェルジュさんは、来客対応中だった。

それぞれ似たような黒のコートを着た、男女2人連れ。

住民の友達って感じじゃなさそう。
会社関係だろうか、それにしてはちょっと雰囲気が物々しいな、と思いつつ遠巻きに通り過ぎようとした時だ。

「ベッカー様」

コンシェルジュさんに呼び止められ、足が止まる。

「はい?」

「お急ぎのところ申し訳ありません。実はこちらのお二人がベッカー様を訪ねて来られて、ちょうど今ご連絡しようと……いえ、ご主人ではなく、奥様を」

「私?」

パチパチ瞬きして、視線を2人へ合わせる。

男性の方は40代、女性はちょっと若くて、アラサーくらいだろうか。
全く見覚えはないから、知り合いじゃない。

どうしたものかと困惑していると、相手の方から近づいてきた。

「宮原茉莉花さん、ですね?」

「え、えぇ、そうですが」

頷く私へ、2人は揃って、手にしていた手帳を見せた。
それはドラマとかでよく見かける、あのシーン――


「警視庁捜査一課の大塚です」
「池田です」


ひゅ、っと喉の奥が奇妙な音を立てた。

刑事さん? 捜査一課?
え、え、どういうこと? 私、何かしたっけ?

動揺を隠せない私に気づいたのか、大塚、と名乗った男性刑事の方がチラリと周囲に視線を走らせる。

「よろしければ、どこか落ち着いた場所でお話をお伺いしたいのですが」

家に入れろってこと?
でも、この人たちが本物の刑事さんだって保証はないし……

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