Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「あの、どういった類のお話、でしょうか」
なんとか気持ちを落ち着け、探るように小声で聞く。
まさか、課長がまた何かアクションを起こしてきたとか……?
後から考えれば、ストーカー程度で捜査一課の刑事が動くはずはないのに、その時の私は相当動揺していたんだろう。
2人の刑事はチラリと視線を交わした。
そして、コンシェルジュさんに聞こえないように数メートル私を移動させてから、大塚さんの方が口を開く。
「2週間ほど前、新宿の建設現場で、男性の他殺体が見つかったというニュースはご存知ですか?」
は? 男性の、他殺体?
話の方向がまったく見えず、小さな声で「いいえ」と答える。
「すみません、ここしばらく全くニュースを見てなくて……」
「かまいませんよ。新聞の社会面に小さな記事が載った程度でしたからね」
「はぁ、そうですか」
「遺体は30代後半、偽造パスポートで不法滞在していた男でした。売人の仲間割れか酔った末の喧嘩沙汰か、当初は単純な事件だと見られていたんですがね、その後重要な事実が判明しまして。被害者は、指名手配中の逃亡犯だったんです」
「指名手配中……」
記憶の底で何かが反応し、私は無意識にゴクリと唾を飲み込んだ。
「富田譲治。ご存知ですよね?」
とみた、じょうじ。
周囲のすべての音と映像が一瞬にして凄まじい勢いで遠ざかって、真っ白な空間にたった一人取り残されたような気がした。
――君も、富田譲治が犯人だと思ってるのか?
富田が、死んだ……
殺された……?