Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
11. 記憶

15年前の5月、ゴールデンウィーク。

その日、本当なら私はお母さんや柊馬と一緒にキャンプに出掛けて、家にいないはずだった。

ところが私は当日風邪で寝込んでしまい、もともと塾の授業があって行かない予定だったお父さんと一緒に、留守番することになった。

そして、あの事件が起こった。

夜、熱を出して眠っていた私は、夢うつつにブザーの音を聞く。
後から報道を見ると、それは午後10時すぎのことだったらしい。

もう塾は終わっている時間。
こんな時間に誰だろう、生徒さんが忘れ物でも取りに来たのかな、と考えたのは一瞬で、すぐに再びうとうとと眠りの世界へ戻っていく。

次に目が覚めたのは、何かが倒れるような音が聞こえたから。

なぜか気になって起きた私は、ふらつく足で階段を降りていく。

1階の廊下を進むと、とある部屋のドアが開いていて、灯りが漏れていた。
塾の、事務室として使っている部屋だ。

中をのぞくと、ひょろりと高い男の人の背中が見えた。

お父さんじゃない。
誰だろう、と不思議に思いながらもう少しドアを開けた。

次の瞬間。

――茉莉花! 逃げなさいっ!! 早く逃げるんだ!!


お父さんの声だった。いつもとはまるで違う声音。
これは冗談ではないと幼心にもわかるような、恐怖と緊迫感に満ちた声。

お父さんの姿は、私の位置からは見えなかった。

刑事さんの話では、その時すでに一撃を食らっていて、昏倒していたのではないかとのことだった。
私が2階で聞いた物音は、その時の音だったのかもしれない。

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