Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
それからのことは、アルバムに貼られた写真みたいに1カットごとの断片的な記憶しかない。
――……〇%$%
とっさに身を翻した私の耳に、聞き取れない叫び声が聞こえたこと。
何度も転びながら、足をぶつけながら、なんとか階段を駆け上がったこと。
自分の部屋に飛び込んで、クローゼットの中に隠れたこと。
しばらくして、変な匂いに気づいたこと。
段々息苦しさがひどくなっていったこと。
たまらずクローゼットを開けると、一気に煙が入り込んできたこと。
無我夢中で窓にたどりつき、顔を外に出して。
助けてって叫んだこと――……
――茉莉ちゃん! 茉莉ちゃん! しっかりして!!
意識を取り戻した時には、消防隊の人が大勢行きかう水浸しの庭で横たわっていて。
学くんが泣きそうな顔で私を見下ろしていた。
後から警察の人に、学くんが梯子を使って窓から私を助け出してくれたんだよと教えられた。消防に連絡してくれたのも学くんだった。
彼の家はうちの近所にある。
だから火事にもいち早く気づいてくれたんだろう。
――学くん学くん、うぁああああああん!
お父さんがもうこの世にいないのだと知ったのは、病院のベッドの上でだった。