Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
12. 戸惑いと疑惑
人間て、いろいろキャパオーバーになると、一周回って無になるのかもしれない。
学くんとなんとか会話を交わせている自分を俯瞰するように考えているうちに、車は目的地へと到着していた。
そうして入っていったのは、ビルの高層階にあるおしゃれなフレンチレストラン。
カジュアルなロング丈のニットワンピという恰好だった私はファミレスで構わないとお願いしたけど、「僕もスーツじゃないよ。一緒一緒」と謎の説得をされてしまい……
学くんはいいのよ。
フツーにセーターとスラックスでも、パリコレモデル着用のハイブランドコーデに見えるから!
なんて文句を飲み込んでついて行けば、ほらやっぱり。
入って行くなり店内中の視線を独占してしまった。
平日のランチタイムだし、友達同士で食事を楽しむセレブな奥様方が多かったことも影響したかもしれない。
女子受けする甘い顔立ちだもんね、彼は。
一緒にいる私のことは散々に言われてそう。
まぁクロードさんと歩く時も似たようなものだし、慣れてますが。
衆人環視の中窓際のテーブルに案内され、苦笑いと共に席につく。
「相変わらずすごいな、学くんの人気。昔もすごかったよね。家まで押しかけてくる女の子とか、いたでしょう?」
バレンタインやクリスマス、学くんの誕生日とか、イベント時には家の前の混雑ぶりが特にひどかったことを思い出して言うと、向かい側に座った学くんも懐かしそうにくすくす肩を揺らした。
「はは、そうだね。そうそう、それで直接家に帰れなくてさ、キズナによく避難してたな」
「キズナかぁ――そうだったね」
“キズナ”というのは、お父さんが塾の自習室を解放して作ったフリースクールだ。
塾に通うお金がなかったり、学校の勉強についていけなかったりする子を中心に、基本高校生以下なら誰でも来てOK。塾の空き時間に、お父さんが勉強を見てくれたのよね。
私も、宿題は毎日“キズナ”でやってたっけ。
「私、学くんの勉強の邪魔ばっかりしてたよね。『ここ教えて』、『ここわからない』、とかって」
「全然邪魔じゃないよ。香は自分でどんどんやっちゃう派だったから、頼ってもらえて嬉しかった。キズナに行ってたのは、ほとんど茉莉ちゃんに会うためだったのかもね」
そう言って、悪戯っぽく片目を閉じてみせる学くん。
ウィンクがこんなに似合う一般人って一体……
若干呆れてしまったところで、食事が運ばれてきた。