Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「あのね、学くんは各務蔵人って名前、聞いたことある?」
恐る恐る尋ねながら、相手の反応を伺う――観察するまでもなかった。完璧な二重瞼で縁どられたその双眸へ、はっきりと驚きの色が走ったから。
「……やっぱり君のご主人、各務だったんだな」
それは疑問じゃなくて、確認だった。
「ほら、前にシェルリーズホテルで会った時、ご主人について聞きたいことがあるって話しただろ? まさに、そのことを言いたかったんだ」
そういえば、そんなやりとりあったっけ。
もっとあの時ちゃんと聞いておけばよかった、と後悔しながら、続けて「どうして彼のこと知ってるの?」と当然の疑問を口にしてみた。
「そりゃまぁ、一応クラスメイトだったからね」
「え、えぇっ!?」
あっさり返って来た想定外の答えに、あっけにとられた。
まさかそんな近い関係だったなんて。
「中学2年と3年の2年間ね。といっても、あいつは不登校気味でさ、あまり学校で顔を合わせた記憶はないんだけど」
そういえば、そんな風なこと刑事さんも言ってたな。
「不登校って、イジメ、とかそういうこと?」
学くんは私の問いに「いや、違うと思うよ」と首をひねり、記憶を探るように宙を見つめた。
「なんていうのかなぁ、何に対しても無気力っていうかやる気がない感じ? 学校なんてどうでもいい、みたいな」
無気力? クロードさんが?
エリートビジネスマンで、CEOの彼が?
絶対零度のデスボイスで部下を叱り飛ばしちゃう彼が?
え、人違いじゃないよね?
怪訝そうな私の視線を受け止め、学くんは続ける。
「職員室で先生たちが噂してるのをチラッと聞いたことがあるよ。あいつ、家の中で孤立してたらしい。家族が弟の方ばかり可愛がって、各務のことは腫物に触るみたいに扱ってたって。もしかしたらその辺りが影響してるのかもね」