Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
半信半疑で記憶をひっかきまわした私は――しばらく沈黙してから、「あっ!」って顔を跳ね上げた。
――お兄ちゃん!
耳元で自分の声を聞いた気がして。
そうだ。
刑事さんから写真を見せられた時、妙に既視感があると思ったのよ。
それって、彼がクロードさんだった、というだけじゃない。
私があの15歳の彼にも会ったことがあるから、なんだ。
「思い、出した」
いつだったか、お父さんがキズナに連れてきた男の子がいた。
新しい友達だよ、仲良くするんだぞ、って。
少年というには大人びていて、青年というにはまだ幼い。
そんな端境期の男の子。
気乗りしなさそうに居心地悪げに佇んでいた姿を、ぼんやりと覚えてる。
「各務が半グレの連中と付き合ってたなんて知らなかったけど、おじさんてお節介なところがあったからさ。たまたまそんな各務を知って、放っておけなくてキズナに誘った、とかそんなところだろうね」
「そっか……そうかもしれない」
あの写真の中で、各務少年は一人だけ明らかに浮いていた。
自分の居場所はここじゃないって、全身で訴えてた。
お父さんは、それに気づいたのかもしれない。
「きっとそうよ。そういう人だったもの」
お父さん、よく話してた。
両親を早くに亡くした自分に今があるのは、周りの人にたくさん支えてもらったからだ、だから今度は自分が誰かを支える番なんだって。
「すごい人だったよね、おじさんて。僕も宮原塾に通って、おじさんから『夢を諦めるな』って背中を押してもらって医者になろうと思ったんだし……あんな大人になりたいなぁって子どもの頃から思ってたよ。あ、あのダジャレを真似ようと思ったことはないけどね」
顔を見合わせて、ぷぷっとほぼ同時に吹き出す。
長い時間表情筋を使ってなかったせいか、なんか頬が痛い。