Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
それでも、まだ笑える自分になんだかホッとしていると、頬杖をついていた学くんが、もう一方の手でテーブルをトントン叩きながら独り言のように言った。
「各務は、君に昔のことを内緒にしてたんだよね? どうして最初名乗った時に、言わなかったんだろう」
話が核心に近づいた気がして、ギクリと顔が強張った。
「ええと、忘れちゃってた、のかも? 私、印象薄いし」
「そうかなぁ……15年前の事件については話したんだろう?」
「う、うん」
「じゃあ万が一忘れてたとしても、間違いなくその時思い出したはずだ。あいつにとっても、あれはインパクトのある出来事だったに違いないからね。忘れるはずがない」
「キズナに通ってたから、ってこと?」
「それもあるし……」
「……あるし?」
私がおうむ返しに聞き返すと、「そっか、茉莉ちゃん覚えてないんだね」と学くんは少し躊躇うように視線を揺らした。
「え、何? 気になるじゃない。教えて?」
なおも食い下がると、ようやく彼は口を開いた。
「……実はさ、あいつ、おじさんの事件が起こった夜、現場にいたんだよ」
「え……?」
告げられた新事実はまるっきり予想の範囲を超えていて――理解するなり、心臓が氷に浸かったようにギュッと縮み上がった。
「そういえばこの話、茉莉ちゃんにしたことなかったね」
冷や汗を滲ませながらなんとか首を縦にする一方で、そういえばと気づく。
あの日の詳細、私も今まで誰にも聞いたことなかったなって。
火事の後過呼吸に苦しんだ私を心配して、お母さんもおばあちゃんも、無理に思い出さなくていい、って言ってたから。
その後もずっと、積極的に知ろうとはしてこなかったんだよね。