Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
私が話してほしいと先を促すと、「15年前のあの夜」、と静かな声で学くんは語りだした。
「僕は家で勉強してた。覚えてるかな、母さんと香はキャンプに出かけてて。茉莉ちゃんが行けなかったヤツだね。父さんは出張中で、家には僕一人だった。そうしたら犬の鳴き声が聞こえて」
激しく吠える声に何事かとカーテンを開けた学くんは、リードを目いっぱい引っ張り飼い主を引きずるようにしてこっちに走ってくる小型犬を見つけた。
「うるさい犬だなぁって見てたら、その飼い主が知ってるヤツ――各務だったんだ。注意しようと思って窓を開けて呼ぶと、あいつもすぐ僕に気づいた。そして進行方向を指して言ったんだ。『煙が出てる! 火事だ、消防車を呼んでくれ』ってね」
その部屋から私の家の方は見えない。
まさかと思いつつも携帯を片手に外へ出た学くんは、私の家から本当に煙があがっているのを見て、慌てて消防に連絡してくれたのだとか。
その後、私を火事の中から救ってくれたんだよね。
「消火活動のどさくさに紛れて、いつの間にか各務は消えてた。きっと面倒なことに関わりたくなくて逃げたんだなって思って、警察には僕が発見したって言っちゃったんだ。黙っててごめんね」
「……つまり火事の本当の第一発見者はクロードさんで、彼にとってもあれはインパクトのある大きな事件だった。だからその渦中にあった私を忘れてるはずはない、ってことね?」
話しながら、頭の中は目まぐるしく考え続けていた。
クロードさんが、あの夜あそこにいた……それって、どういうこと?
偶然通りかかっただけ?
そりゃ、彼らが到着した時にもう火事が起きていたのだとしたら、クロードさんに何かできたはずはない、と思うけど……
「それでも、クロードさんは私に何も言わなかった。つまり嘘をついてたってことになるよね」
やっぱり妙な予感が消えない――何かあるって。
blue moonのような出会いも、セックスレスも、
豪奢な鳥かごの中のような生活も……すべてを繋げる何かがあるって。
嘘をついてでも隠したかった、もっと大きな秘密がある、って。
視線を下向けたままの私から心中を察したかのように、学くんは「確かにさ、ちょっとおかしいなと思ったことはあるよね」と低い声で言う。
「例えば、なんであんな時間に犬の散歩なんかしてたんだろう、とか。まぁコンビニの袋持ってたから、買い物のついでとかかもしれないけど」