Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
パウダールームで軽くメイクを直し、ふぅ、と一息つく。
鏡の中から、たった半日で10歳くらい老けたように見える自分が見つめ返してる。
胸元には、欠かさずつけてるネックレス。
結婚指輪と同じくらいマストのアイテムとなったそれに触れながら、これをもらったクリスマスの、幸せだった時間を思い出す。
もう……あの頃には戻れないの?
私と彼は、初対面じゃなかった。
彼は富田ともお父さんとも面識があった。
彼は火事の時現場にいた。
それらのすべてを隠して、彼は私と結婚した。
更には、殺される直前の富田と、連絡を取っていた――?
考えれば考えるほど、状況はよくない方向へ向かっている気がする。
思い込みはよくないし、まだわからないことだらけ。
クロードさんのことは大好きだし、信じたい気持ちももちろんある。
だけど……
考えながら、スマホへと目を落とした。
待ち受け画面の真ん中、2人を引き裂くように入ったヒビに、胸がギュッと切なく痛む。
「帰りたく、ないなぁ」
ヒビを指で辿りつつ独り言ち――着信があったことを知らせる点滅が目に留まり、首を傾げた。
クロードさん、かな?
遅くなるって言ってたけど……何か変更でもあった?
訝しく思いながら履歴をチェックしてみれば、見覚えのない番号からだ。
眉間の皺が深くなった。
迷惑電話の類かな、ただ刑事さんからってことも考えられる。
今日はもう散々いろんなことがありすぎて、いっぱいいっぱいなのに、とぼやいてから、ため息交じりに留守録メッセージを再生してみた。
『ええと、あのぅ、宮原茉莉花さんの携帯で間違いないかしら――』
流れてきたのは、聞き覚えのない年上っぽい女性の声。
彼女が告げた内容はまったく予想外のもので、私は思わず「ええっ!?」とパウダールームの中で声をあげてしまったのだった。