Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

「学くん、押入れの中に大きめの旅行カバンがないかな」
「旅行カバンね」

「そう、荷物が全部入るような――」

パサッと、何かが畳に落ちた。

「ん?」

白い封筒。お母さんあての、手紙だ。
どこかのファイルに挟まってたんだろう。

差出人は……桜木史恵? さくらぎふみえ、って読むのかな。
知らない人だ。
消印は、事件の2週間くらい後。

この段ボールに入ってたってことは、これも事件絡み……?


「あったあった、これでいいのかな旅行カバンって」


「え? あ、それそれ! ありがとう」

言いながら、私はそれをニットワンピのポケットへ押し込んだ。
後でゆっくり調べてみようと思いながら。

◇◇◇◇


「……りちゃん、茉莉ちゃん? 着いたよ」

「え? あ、ごめん、ぼうっとしてた……!」

私はあたふたと周囲を見渡し、車が自分のマンション前まで戻ってきていることを知った。

そうだ、結局面会時間に間に合わなくて、夜勤のナースさんへおばあちゃんの荷物を託して、「どうせだから家まで送るよ」って言ってくれた学くんにまたまた甘えさせてもらうことになって……

車に乗り込んであとは帰るだけ、と少し気持ちが落ち着いたら、この後に控えるクロードさんとの話し合いのことが頭の中でぐるぐる回りだし、学くんの存在をすっかり忘れてしまったみたい。

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