Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
結局午後中ずっと付き合ってくれたのに無視しちゃうとか、ほんと何様? って感じだよね。
夕食はおばあちゃんの家にあったパンを片手間にかじっただけだし。
あがってもらって、何か出した方がいいかな?
チラリと窓からマンションの方へ視線を上げる。
遅くなりそうだって言ってたから、まだクロードさんは帰ってないはず。
だったらちょうどいいよね――って、別にやましいことは何もないんだけど!
「学くん、今日は本当にありがとう。いろいろ助けてもらって。それで、お礼ってわけでもないんだけど……」
話しながらシートベルトを外そうと横を向くが、なかなか外れない。
「あれ、あれおかしいな……」
バックル部分をガチャガチャさせていると、「ちょっと貸して」と学くんが隣から身を乗り出してきた。
まるで覆いかぶさるみたいに私の上を横断し、接続部分を覗き込む。
普通の乗用車より車内が狭いせいか余計に密着してしまい、鼻腔をくすぐる香りにドキッとした。
学くんにぴったりの、爽やかなシトラス系。
クロードさんとは違う香りだ。
クロードさんのは色っぽくて深みがあって、ぞくぞくするほどエキゾチックな――
カチャッと軽い音がした。
「はい、取れたよ」
「ぁ、ありがとう」
はぁ、ダメだなぁ。
いつでもどこでも、どうしたってあの人を思い出してしまう、と苦く頬を歪めたところで、あれ、と違和感を感じた。