Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

ままままマズいっ!
今の、思いっきり見られた!?

「ま、学くんっ」

ジタバタ抵抗すると、彼の方も気づいたのか、今度はさすがにあっさりと解放された。

ドアが開くなり私の身体は強い力で外へ引っ張りだされ、背後へ押しやられる。

「く、クロードさんっあの、これはそのっ……」

まるで壁のように視界を塞ぐスーツ姿の背中を見上げ、縋るように声を上げるも――

「茉莉花は黙ってろ」

感情を消した低音に一蹴された。

「人妻相手に随分ふざけた真似してくれるじゃないか。覚悟はできてるんだろうな?」

抑揚のない押さえた口調の端々から、煮えたぎるような怒気を感じる。

あの時と同じだ。
私が課長に襲われた時。

圧倒される一方で、一瞬今日の出来事を都合よく記憶から抹消して、浅ましく期待してしまう自分がいる。

私と学くんの関係を誤解して、怒ってるのよね?
それって、つまり、私のこと――ううん、それは後よ、後!

「あ、あのっ……ち、違うんですっ。おばあちゃんが骨折で入院して、学くんは私を病院に送り届けたりしてくれただけで、ほんとに何もなくてっ」

「茉莉ちゃん、いいよ。庇ってくれなくていい。下心があったのは事実だからさ」

落ち着いた声が聞こえ、運転席側のドアが開く。

「何もなかったのは本当だよ」
外へ出た学くんはボンネットに手をつき、おどけたように肩をすくめてみせた。

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