Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
もちろん私だって、そんなこと考えたくない。
彼のことを100%信じたいし、愛し愛されたい。
そのためには、まず彼と話し合わなきゃならない。
「やめ、て……ダメ、お願いっ」
がんばって茉莉花、今、流されちゃダメ。
力の入らない手で彼の腕を叩き、ありったけの力で引き剝がす。
もちろんそんな些細な抵抗、彼にとってはものの数には入らず、その筋肉質な腕を1ミリたりとて動かすことはできない。
それでも――どうにか、抵抗の意志は伝わったみたい。
「…………」
私の身体をまさぐっていた手が止まる。
「話、を……させて、くださいっ……」
震える足に力を入れて立ち、息も絶え絶えに訴える。
すると、しばらくして、覆いかぶさっていた上体が離れていった。
「……悪かった」
「え?」
見上げる私からその双眸を隠すように、彼は片手で前髪をぐしゃりと握り締める。
「こんなこと……すべきじゃなかった」
自嘲気味な台詞とともに、一歩二歩とうつむき気味に後ずさる。
急に密着が解けたせいだろうか、サッと身体が冷えていく。
「いえ、その、謝ってほしいわけじゃなくて、ただいろいろ話さないと……」
「あぁもちろんだ。刑事が来たんだろう?」
「え、ご存知だったんですか?」
「あぁ、コンシェルジュが教えてくれた」
なるほど、そういうことか。
「座って話そうか。リビングへ行こう」
床に落ちたコートとカバンを拾ってくれた彼が、そのままくるりと背を向ける。
遠ざかっていく背中を見つめながら、気づいた。
さっきから、全く視線が合わないって――