Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
少し待ってもらって部屋着に着替えた私がリビングへ顔を出すと、ソファへ座るクロードさんが見えた。
彼の方は、スーツのジャケットを脱いだだけの格好だ。
ネクタイが緩み、寛いだ襟ぐりから喉元が覗いてる。
それがまた色っぽ――と、見惚れそうになる自分を咳払いで誤魔化した。
「お待たせしました。ええと、何か飲みますか?」
「いや、俺はいらない。茉莉花は自分で好きにしたらいい」
特に私も欲しいわけじゃなかったので、少し迷ってから、2人分くらいの空間を空けて彼の隣へ腰を下ろした。
「…………」
「…………」
気まずい沈黙、というほどではないものの、どう切り出すべきかお互い考えあぐねている、という無言が続く。
昨夜の甘やかな空気は、もちろん欠片もなかった。
2人の関係が変わってしまう。
そんな予感をどちらも抱いているせいかもしれない――と、心の中で考えていたら、「そういえばおばあ様の足の具合は? 骨折されたんだろう?」とおもむろにクロードさんが口を開いた。
「あ、はい大丈夫です。2か月くらい入院が必要だそうですが」
「そうか。歩けないといろいろ不便だろうな」
「そうなんです、そんな経験ないからか、ちょっと落ち込んでました」
「病院はどこ?」
お見舞いを贈りたいというので、「気を遣わなくていいですよ」と言いつつ病院名を伝えた。
本当にこういうところ、真面目なんだよね。
「……それで、刑事はなんだって?」