Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
さぁ、いよいよだ。
それから私は、今日刑事さんから聞いた話をぽつりぽつりと説明した。
新宿で見つかった他殺体が富田だったこと、富田が連絡を取っていた“カガミ”という人物のこと、写真を見せてもらったこと、それがクロードさんだと気づいたこと……
昼間学くんに同じ話をしたおかげか、割と落ち着いて話せたと思う。
「学くんからも聞きました。彼とクラスメートだったんですよね?」
最後にそう聞くと、少しの間があり、それから項垂れるようにして彼は頷いた。
「……驚いたよな。黙ってて悪かった。もっと早く言おうと思っていたんだが」
認めた……自分は各務蔵人だと。
音もなく爆弾が落ちたような衝撃に耐え、ギュ、と膝の上で両手をきつく組む。
「どうして、初対面のフリなんてしたんですか?」
極力感情を乗せないようにして、機械的に言葉を繋ぐ。
さもないと、泣き出してしまいそうな気がした。
「ブルームーンで最初に会った時から、私が誰か、わかってたんですよね?」
探るように隣へ視線をやるが、まるで自分の心の中を読ませまいとするかのように彼は目を伏せたまま。
「もちろん俺は覚えていた。が、茉莉花は覚えていなかっただろう。俺のこと」
それでもその寂しげな声音は、なぜか耳の奥に残った。
「……え?」
「俺の存在を覚えていないなら、無理に思い出させる必要はないと思った。あの頃のすべては、あの事件と強く繋がっているからな。嫌な記憶まで一緒に思い出してしまうくらいなら、『初めまして』から始めた方がマシじゃないか?」
あの事件……お父さんの事件のことよね。
私を混乱させまいとして初対面のふりをしたってこと?
つまり、私のため……?
「じゃあどうしてっ……!」
どうして、私と結婚したんですか――
勢いのままに叫びそうになって、寸前で堪えた。
その問いの答えがものすごく重要だと、わかっていたから。
まだ、そこまでの決定的な答えを聞く心の準備はできていなかったから。
「…………」
私は、一旦胸に手を当てて深呼吸。
私たちの関係についての質問は、後回しにすることにした。