Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

「じゃあ……富田のことは? 殺される前に連絡を取ってた“カガミ”っていうのは、本当にクロードさんのことなんですか?」

「……あぁ、そうだ」

こちらもあっさり肯定されてしまい、想定内とはいえ、やっぱり衝撃が走った。

「まさか、ずっと居場所をご存知だったんですか?」

犯人が富田か、富田以外の誰かなのかはわからない。
ただ富田が、事件の解明に欠かせないキーパーソンだったことだけは間違いない。

「居場所を知ってたのに、黙ってたってことですか? 警察にも、私たち遺族にもっ……」

言いながら、苦しかった日々が脳裏を過る。

どんどん痩せていくお母さん、
笑わなくなった柊馬、
疲れた顔で笑うおばあちゃん……

お母さんはとうとう体調まで崩して、お父さんを追うように亡くなった。
私も柊馬も、人生が大きく変わった。

あの事件が、変えてしまった。

「富田が見つからなかったから、事件はずっと未解決のままだったんですよ? 警察は、他に真犯人がいるのかもって言ってましたけど、富田が殺されちゃったら、もしかしたらこのまま迷宮入りになっちゃうかもっ……」

感情の高ぶりそのままの、ブレまくった声がリビングにこだまする。
恥ずかしいとかなんとか、考える余裕はまったくなかった。

そんな私の心情を、彼もわかっていたんだろう。

こちらが一息つくまで待ち、それから静かに口を開いた。

「富田は、犯人じゃない」


「……え?」

「茉莉花だって言ってただろう。お義父さんが、面識がないはずの富田を家に招き入れるのはおかしい、と」

「それは……」

その通りだ。
加えて、放火の前科のこともそうだし、ライターが見つかったこと、当日のアリバイがなかったこと、そのまま姿を消したこと……富田に不利な状況ばかり積み上がっていって、出来すぎてる、って思ったことは何度もある。
ある、けど……。

< 223 / 402 >

この作品をシェア

pagetop