Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

彼と出会った頃、私はセクハラに悩みつつも柊馬の学費のために転職を選ぶこともできなくて弱っていた。

そんな状況を知ったクロードさんが、お父さんの死に対するせめてもの贖罪として私を助けたいって思ってくれたんだとしたら?

結婚という形を取ったのは、そうでもしなければ赤の他人の彼が自然な形で金銭的な援助をすることは難しかったから。まだ過去のいろいろなことまで打ち明ける時期ではないと思っていたから。

彼が望んでいたのは、私を経済的な苦境から救うことだけ。
私自身に興味なんかなかった――だから抱かなかった。

パチリ、パチリ、と空白だったパズルのピースが見事にはまっていくにつれ、自分の顔から血の気が引いていくのがわかった。


「茉莉花」

「は、はいっ」

震える指先を握り込み顔を上げると、感情の読みにくい、凪いだ眼差しとぶつかった。


「いい機会だ。しばらく距離を置こう」


「きょ、り……?」

意味を理解するより前に、ドクン、と心臓が不穏に揺れる。
え、それって……

「俺は君に過去を隠してた。嘘もついていた。顔も見たくないと嫌悪されても、仕方ないと思う。俺から離れて冷静になって、これからどうしたいか考えてくれ。俺は茉莉花の決めたことに従おう。もちろん、どんな道を選んだとしても不自由なく生活できるように、ちゃんと手配はするから心配しなくていい」

別居、からの離婚、を匂わせる台詞に、思わず反論しかけ――次の瞬間にはその口を力なく閉ざしていた。

それこそが彼の本音なのかもしれない、って思ったから。

過去を隠してたとか嘘をついてたとか、そんなことはただの言い訳で。
早く私から離れて、高橋さんの所へ行きたいって。


「……そう、ですね。ちょっと、1人になりたいかも」

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